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激烈さを増す“雨台風”への長期戦略

地球温暖化対策にくわえてわれわれに突きつけられている課題とは

田中秀征 元経企庁長官 福山大学客員教授

千曲川の堤防が決壊して浸水した住宅=2019年10月13日、長野市穂保

 相次いで日本を襲った台風や豪雨によって日本の一部地域が大きな被害を受け、避難生活を強いられる人々も増えている。たとえば10月25日に千葉県などを襲った大雨は、たった半日で平年の10月1カ月分の雨量を記録したという。

 それに先行した10月12日に東日本を襲った19号台風の威力もすさまじかった。今回のような台風を専門家は“雨台風”と呼んでいるようだが、最近の台風がもたらす雨の量はかつてないもので、強風もさることながら、集中豪雨の激烈さはわれわれの常識をこえ、治水の備えを凌駕してしまう。

「いつもの台風」とはどこか違う今の台風

 気象庁は19号の上陸当初から、この台風は狩野川台風(1958年)と似ていると言ったが、上陸地点や勢力はそうでも、今回のように長野県まで影響を与え、その後、東北一帯を襲って大きな被害をもたらすようなことはなかったと記憶している。どうして、狩野川台風と違ったのか、検証する必要があるだろう。

 その翌年1959年に、伊勢湾沿岸の三重県や愛知県を中心に全国に甚大な被害をもたらした伊勢湾台風は、5000人の犠牲者を出し、明治以来最大の台風被害と言われた。大学1年生だった私は、友人とカンパを集めて名古屋に入り、被災地の地獄のような凄惨なありさまを目の当たりにした。ただ、それも「いつもの台風の巨大なもの」という理解であった。

 近年の台風は、素人目にも「いつもの台風」とはどこか違ってきているように見える。気がつくのは、北海道をも襲う、雨量が尋常ではない、そしてあまりに頻繁だということなどだろう。

いまや不可避な地球温暖化への対応

壊滅的な被害を受けた決壊した千曲川の堤防近くの集落=2019年10月20日、長野市
 従来の気候が明らかに様変わりしているのは、なにも日本だけの現象ではない。世界のどこでも、かたちは地域ごとにさまざまだが、異常な気象に悩まされている。それが、地球温暖化に起因するものだと言われれば、そうに違いないと思われるほど、学術調査のデータもそろってきている。海面温度の上昇、あるいは水位の上昇を指摘されれば、近年の“雨台風”への変容がよく理解できる。

 世界が気候変動をもたらす温室効果ガスの削減に本格的に取り組まない限り、こうした異常気象はますます深刻化するだろう。そして、将来的には“雨台風”の威力はいっそう破壊的になるであろう。それは確かなことのように思われる。

 温暖化対策は不可避であり、具体的に一日も早く対応しなければならない――。これが、19号台風からわれわれが念をおされた課題である。

水田の減少で国土の貯水能力も減少

 くわえて、われわれは別の方面からの課題もまた、突きつけられている。それは、しばらくは巨大な台風の出現を回避できないのであれば、被害を最小にするような根本的な取り組みを始めなければならないということだ。

 言うまでもなく、今回の台風や集中豪雨で被害を受けた人々への経済・生活面での救済は、当然ながら急がなければならない。その上で、将来を見据えた長期戦略が必要なのである。

 そう書くと、すぐに「国土強靱化」という言葉が浮かぶ人は少なくないだろう。いわゆるインフラの強靱化が必要なことは、私も否定はしない。ただ、それだけでことはすむのか。もっと根本的なところに課題があるのではないかという気がしてならない。

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