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タンザニアで気づいた日本野球のガラパゴス化

野球人、アフリカをゆく(15)

友成晋也 一般財団法人アフリカ野球・ソフト振興機構 代表理事

独自の文化として発展した日本の野球

 ところで、「ベースボール」が「野球」と初めて日本語に訳されたのは1894年と言われている。べ―スボールが日本に紹介されて23年後のことだ。そして、ベースボールと同じスポーツであるはずの野球は、その後、戦前戦後を経て、日本的な特徴を持つ独自の野球文化として発展してゆく。

 機動力や小技を使って勝つ戦術をスモールベースボールというが、日本ではさらに頭を使って、ルールの範囲内で相手のスキをついたり、ごまかしたり、相手に野球をさせない妨害のような行為をしたりする。

 幾つかを紹介してみよう。

・ピッチャーが内角の厳しい(打者に近い)ところに投げてバッターをのけぞらせ、恐怖感を与えておいて、次に外側に投げる。
・キャッチャーが捕る瞬間ミットをストライクゾーン方向に動かしてボールをストライクのように見せかける。
・バッターがファウルで粘って相手投手を疲れさせる。
・一塁ランナーは野手に向かってスライディングをして一塁への転送を妨害し、ダブルプレーを防ぐ。
・二塁ランナーが、味方のバッターに球種やコースをサインで教える。
・キャッチャーはホームの1角だけを開け、バックホームされたボールをつかんでミットでその一角を埋めてランナーにベースをみせないようにする。
コーチャーは、味方のランナーが走ってきたら両手を広げてセーフ!と叫び、審判にセーフと言わせるよう仕向ける。

 きりがないのでこの辺でやめておくが、こうした行為は、私の高校、大学の野球部現役時代は、頭を使った野球、正しい技術、あるいはチームワークとして認識され、少なくとも私の周りでは今まで常識として、誰も疑う人はいなかった。

真っ向から否定された野球観

 「友成さん、それはすべて間違いですよ。日本の野球はガラパゴス化している。正義の野球ではない。マナー違反だ。世界では、そんな野球は通用しないです」

 私がこんなことを言われたのは、2014年の12月、タンザニアでのことだった。

 10歳から野球を始めて高校、大学と野球を続け、その後も野球と共にあった我が人生。そんなことを言われたことがなければ、「はあ?なにを言ってるんですか?」と思うのが自然だ。

拡大甲子園で主審を務めている時の小山克仁さん
 しかし、これを私に正面から伝えてくれたのは、全日本アマチュア野球規則委員会副委員長であり、現在はアジア野球連盟審判部長を務める小山克仁さん。名門法政二高、法政大学と本格的に野球を続け、25歳から審判員となって、東京六大学や国際大会、甲子園でも審判を務めている。この時点ではバリバリの現役で、日本の野球界のど真ん中にいる、野球人としての大先輩なのだ。

 私は激しく動揺した。

 想像してみてほしい。自分の人生の真ん中を貫く、40年間近くかけてつちかわれてきた野球観が、ミスターベースボールともいえるような人に、真向から否定されたのだ。


筆者

友成晋也

友成晋也(ともなり・しんや) 一般財団法人アフリカ野球・ソフト振興機構 代表理事

中学、高校、大学と野球一筋。慶應義塾大学卒業後、リクルートコスモス社勤務を経てJICA(独立行政法人国際協力機構)に転職。1996年からのJICAガーナ事務所在勤時代に、仕事の傍らガーナ野球代表チーム監督に就任し、オリンピックを目指す。帰国後、2003年にNPO法人アフリカ野球友の会を立ち上げ、以来17年にわたり野球を通じた国際交流、協力をアフリカ8カ国で展開。2014年には、タンザニアで二度目の代表監督に就任。2018年からJICA南スーダン事務所に勤務の傍ら、青少年野球チームを立ち上げ、指導を行っている。著書に『アフリカと白球』(文芸社)。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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