メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

ウグイス嬢二重報酬をめぐる選挙の「商慣行」

細かい割には解釈が適当な公選法の落とし穴

井戸まさえ ジャーナリスト、元衆議院議員

「裏で取引するのが政治」という誤った高揚感

 公職選挙法では車上運動員、いわゆるウグイス嬢や事務員、手話通訳者や要約筆記者に対する報酬と人数の上限を決めている。これには資金力のある候補が一方的に有利にならないよう抑止の意味もある。

 ただ、不思議なことにウグイス嬢や選挙事務員の報酬の上限はあっても勤務時間の制限等はない。選挙活動でマイクが使えるのは午前8時〜午後8時の12時間。つまり12時間ずっと話しっぱなしでも、二交代制で1日6時間勤務でも、極端な話1時間だけマイクで訴えても、一人当たりの報酬上限1万5千円は変わらない。もちろんずっと話しっぱなしというのは無理。休憩なしではパフォーマンスが落ちるので、資金力のある陣営の場合、2〜3人を二交代制でという形をとり、一人が話している間は白い手袋をはめた手でいわゆる「お手振り」を行いながら休憩を取るというのが一般的なウグイス嬢の勤務内容だ。

拡大選挙カーに乗ったウグイス嬢

 ちなみに最近では選挙カーに使用する車の形状が変わり、窓が全開できない車両も多くなり、特注するには費用がかさむのでその業務もなくなってきているのではあるが。

 ウグイス嬢は後援者や知り合いのつてで依頼する場合もあるが、通常アナウンススクールや結婚式の司会業等を主な業務とするイベント会社等と契約し派遣してもらうことが多い。また過去の選挙で候補者と相性が良かったり、上手との評価を得たウグイスに個別に声をかけることもある。総選挙ともなると技術力の高いウグイスは引っ張りだことなり、ウグイス嬢の争奪戦が起こる。衆議院の場合、解散の雰囲気が出てきたところで最初にすることは何をおいてもウグイス嬢の確保というのが大抵の事務所の行動パターンである。

 イベント会社に個別のウグイス指名で委託することも多い。それは候補者陣営にとっても労務管理が楽だったり、経理上も楽だからである。またウグイス嬢もセクハラ、パワハラ等があった場合等のリスクヘッジは会社が中に入っていた方が良いという側面もある。

 経理上でのメリットとしては、候補者の側からすると、今回のようにウグイス嬢個人から選挙本番と選挙前の日付で複数の領収書をもらわなくても、選挙前の部分に関しては時期をずらしてたとえば「企画料」等の名目で業者に一括で払えば良いということになる。今回のような二重支払いも発覚しにくくなり、突っ込まれても「もっともらしい言い逃れ」もできやすくなる。

 さらにこの問題をややこしくしているのは、仕事を受けるほうのウグイス嬢を派遣する会社やベテランウグイスの中も、法定費用内ではやらないのが「プロ」のプライドとなっている場合があるということだ。結果、報酬が釣り上がり、その値段以下であれば受けないと言われてしまったら候補者たちは裏取引だとわかりながらも「言い値で契約するしかない」(ベテラン議員)という。報酬の額とパフォーマンスが比例し、当選に貢献していると実感もしているからこそ、候補者たちは法外での支払いを是認するのである。

 現行の報酬額が低いと思うのであれば、国会議員は公職選挙法を変えてウグイス嬢の日当の上限を3万円でも5万円にでもすれば良いのだが、それをしないで「裏で取引するのが政治」という誤った高揚感も商慣行の一部になっているのが現状だ。ただ、ウグイス嬢の全員が「プロ」かといえばそうとも言えず、学生のバイトから元アナウンサー、声優まである意味そのパフォーマンスは「ピンキリ」。前述通り時間の規制もしないのであれば、上限の基準を決めることは難しいかもしれない。

 これはウグイス嬢の報酬だけでなく、公費助成をめぐる印刷費や

・・・ログインして読む
(残り:約2021文字/本文:約4675文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

井戸まさえ

井戸まさえ(いど・まさえ) ジャーナリスト、元衆議院議員

1965年宮城県生まれ。ジャーナリスト。東京女子大学大学院博士後期課程在籍。 東洋経済新報社勤務を経て2005年より兵庫県議会議員。2009年、民主党から衆議院議員に初当選(当選1回)。著書に『無戸籍の日本人』『日本の無戸籍者』『 ドキュメント 候補者たちの闘争』、佐藤優との共著『不安な未来を生き抜く最強の子育て』など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

井戸まさえの記事

もっと見る