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中島岳志の「野党を読む」(4)馬淵澄夫

山本太郎より先に消費税減税を訴えていた馬淵氏。野党再編のキーマンに急浮上した

中島岳志 東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授

山本太郎と「消費税減税研究会」を旗揚げ

 10月30日、「消費税減税研究会」の初会合が開かれました。

 この研究会を立ち上げたのは馬淵澄夫さんと山本太郎さん。消費税5%への減税を検討する勉強会で、現職国会議員のほか、馬淵さんが率いる落選議員らの勉強会「一丸の会」のメンバーの多くが参加しました。

 7月の参議院選挙で躍進したれいわ新選組は、消費税廃止を看板政策に掲げ、2議席を獲得しました。代表の山本さんは、消費税廃止・減税を訴える政治家の代表格と見なされていますが、彼よりも先に消費税減税を説いていた政治家が馬淵さんです。

 2017年10月18日には「消費税引き下げの検討」という論文を発表しています。ここで馬淵さんは「日本経済を成長軌道に乗せ、デフレを脱却するためには、今こそ、その障害となっている消費税の引き下げを行うべきではないか」と問いかけています。

 消費税を増税すると、その影響は「低所得者層や中小企業、零細企業、さらにはそれらに勤める勤労者やその家計に集中」します。格差社会が深刻化し、貧困が拡大する中、「個人消費を回復させ、景気を回復路線に乗せて物価を着実に上昇させるためには、消費税の8%への据え置きだけではなく、むしろ5%への引き下げが必要」。これが馬淵さんの強い主張です。

 問題は財源です。

 馬淵さんが提起する代替税源の中核をなすのは「所得税の社会保障料控除の見直し」と「金融所得の課税強化」です。これに加えて「デフレ脱却による金融所得の課税の機能回復」や「予算の精査」「不要な国の事業の見直し」が挙げられます。

 算出根拠などの詳細は、ネット上に公開されている論文を読んでいただければと思いますが、「所得税の社会保障料控除の見直し」で約2.2兆円、「金融所得の5%アップ」で約1兆円、「予算の無駄積みの排除」で約2兆円、「不要な国の事業の見直し」で数千億円、合わせると6兆円近い財源を確保できると言います。これによって消費税3%分の財源を確保することができ、「消費税5%への減税」が可能であると説きます。

 馬淵さんの議論の根本にあるのは、格差是正と再配分の強化です。「高所得層の負担を引き上げ、代わりに逆進性の高い消費税を引き下げることで、中間層から低所得層の消費を喚起する再分配政策を行うべき」というのが一貫した主張です。

 この考え方が、山本太郎さんと呼応し、勉強会の立ち上げに至ったのでしょう。

拡大「消費税減税研究会」の初会合で握手する無所属の馬淵澄夫・元国土交通相(右)とれいわ新選組の山本太郎代表=2019年10月30日、国会

 馬淵さん曰く「やはり、国民からすれば『懐がどうなるか?』という経済政策が最大の関心事であ」り、アベノミクス最大の失敗は、消費税の増税である。この急所を突き、消費税の減税を掲げることこそが「野党が打ち出す、絶好の争点」である――。そう訴えていました。もう1年前のことです。(「消費税率の引き下げ検討を 自民は争点にできず」毎日新聞・政治プレミア、2018年10月2日

 「消費税減税研究会」は、今後の野党連携に大きな影響を与えるでしょう。消費税減税という政策には、経済の活性化による貧困問題の解決という重要なテーゼがあります。野党が政権奪取を賭けて、与党に挑む際の明確な争点になります。

 今後の野党政局の動向にとって、極めて重要な勉強会が発足したことになりますが、この流れを仕掛けた馬淵澄夫という政治家は、いかなる考えを持った人なのか。

 以下でじっくりと検討していきたいと思います。


筆者

中島岳志

中島岳志(なかじま・たけし) 東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授

1975年、大阪生まれ。大阪外国語大学でヒンディー語を専攻。京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科でインド政治を研究し、2002年に『ヒンドゥー・ナショナリズム』(中公新書ラクレ)を出版。また、近代における日本とアジアの関わりを研究し、2005年『中村屋のボース』(白水社)を出版。大仏次郎論壇賞、アジア太平洋賞大賞を受賞する。学術博士(地域研究)。著書に『ナショナリズムと宗教』(春風社)、『パール判事』(白水社)、『秋葉原事件』(朝日新聞出版)、『「リベラル保守」宣言』(新潮社)、『血盟団事件』(文藝春秋)、『岩波茂雄』(岩波書店)、『アジア主義』(潮出版)、『下中彌三郎』(平凡社)、『親鸞と日本主義』(新潮選書)、『保守と立憲』(スタンドブックス)、『超国家主義』(筑摩書房)などがある。北海道大学大学院法学研究科准教授を経て、現在、東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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