英語民間試験よりも深刻な効果ゼロの大学入試改革
萩生田文科相の「身の丈」発言を契機とした英語民間試験の導入延期は当然として……
米山隆一 衆議院議員・弁護士・医学博士
政府が掲げる教育改革の中身
はじめに政府が掲げている教育改革と、その中における「英語民間試験導入」「大学入試制度改革」の位置づけを見てみましょう。
現在、政府は、「受け身から主体的な学びへ」を掲げて、初等教育から大学教育に至る大きな改革を掲げています。(新しい指導要領の考え方:高校教育改革概要:大学教育制度改革の概要:大学入試制度改革の概要)。
このなかで、高校教育と大学教育の双方において、英語においては「読む 聞く」技能から「読む 書く 聞く 話す」の4技能、その他の全教科においては「知識 技能」の習得をもとにした「思考力 判断力 表現力」、さらには「主体性をもって多様な人々と協働して学ぶ態度」を達成するものとされています。これらの高校教育における達成度を評価するために、英語においては4技能を評価する民間試験、国語、数学においては「思考力 判断力 表現力」を評価する記述式試験を行う大学入試改革を行うことを、政府は掲げているのです(詳しくはこちら)。
高校・大学の教育において、「受け身から主体的な学びへ」が実現し、英語において「読む 書く 聞く 話す」の4技能が習得され、その他全教科において「知識 技能」の習得をもとにした「思考力 判断力 表現力」、さらには「主体性をもって多様な人々と協働して学ぶ態度」が習得できるなら、それは極めて素晴らしい事であり、それが「理想の到達目標」であることに異論のある人はいないでしょう。
しかし、「理想の到達目標」を打ち出す事は誰にでもいかようにでもできます。問題は、政府が掲げている大学入試改革(延期された英語民間試験の導入と、国語と数学の筆記式の導入)によって、本当にその目標に到達できるのか、少なくとも目標に近づけるのかだと思われますので、この点について検討したいと思います。

民間試験「見送り」発表の5日前に都内で開かれた河合塾主催の新大学入試説明会。高2以下の生徒と保護者らが各民間試験の特徴の解説に聴き入っていた=2019年10月27日、東京都新宿区
大学教育の充実にはつながらない入試改革
まずもって、「大学入試」は言うまでもなく、大学入学者を選抜するための試験に過ぎず、「高校教育の達成度」を判定する試験でも、ましてや「大学教育での達成度」を判定する試験でもありません。またこれも当然のことながら、大学入試を改革しても、高校教育の中身や大学教育の中身を直接変えることにはなりません。
大学入試改革によって「理想の到達目標」に近づき・実現するには、それが、
①大学の入学者のより良い選抜方法として大学の教育を充実させる、
もしくは大学入試が事実上高校の教育の目標となっている現状に鑑み、
②高校の教育内容を向上させ高校生の学力を高める、
ものでなければなりません。
では、政府の掲げる大学入試改革(延期された英語民間試験の導入と、国語と数学の筆記式の導入)は、①大学入学者のより良い選抜方法として大学の教育を充実させる、ものとなりうるでしょうか。
私はまず、なりえないと思います。理由はシンプルで、英語を「書く 話す」技能、そして全教科における「思考力 判断力 表現力」は、そもそも評価・判定することが極めて難しいうえ、50万人に対して一律になされた評価・判定は、個別の大学、学部、学科の入学者の選抜にはほぼ役に立たないと思われるからです。