萩生田文科相「身の丈」発言はケガの功名だが……
問題だらけの英語の「民間試験」見送りは朗報だが、検証するべきはほかにあるのでは
田中秀征 元経企庁長官 福山大学客員教授
萩生田光一文部科学相は11月1日の記者会見で、2020年にスタートする大学入学共通テストで予定されていた英語の「民間試験」の導入を見送り、計画をあらためて見直すと言明した。
文科相は(制度に)全体的に不満があると認めざるを得ないので、あえて見送ったという。そして、「私の発言が直接原因となったということではありません」と弁明した。
だが、彼が10月24日のBSフジの番組で、「自分の身の丈に合わせて(英語民間試験で)頑張ってもらえば」などと述べたいわゆる「身の丈」発言が、格差を容認しているとして世論の猛反発を受け、それが方針転換につながったことを疑う人はいない。
文科相辞任を回避するため制度を犠牲に?

英語民間試験を受ける高校生らを特定するための「共通ID」の申込書。文部科学省が延期を発表したため、大学入試センターは対応を検討する=2019年11月1日、東京都目黒区
安倍晋三政権にすれば、二人の閣僚(菅原一秀経産相談、河井克行法相)が相次いで辞任した直後。ここで三人目の閣僚辞任にならば、政権維持が極めて困難になる。だからこそ、辞任を回避するため、ここまで準備を進めてきた制度そのものを犠牲にしたということが疑われる。
一部報道(毎日新聞11月2日朝刊)ではこんな記事もあった。
「首相周辺も今回の決断について『萩生田氏を守るために、試験見直しを野党に差し出した』と表現した」
まさに制度が大臣の身代わりとなって葬られたということになる。
問題となった「自分の身の丈に合わせて頑張って」というくだりだが、この「身の丈」という言葉で、経済格差や地域格差、あるいは学力格差を感じるのは当然だ。特に受験を控えた高校生や家族にとっては、胸に突き刺さる言葉遣いである。