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萩生田文科相「身の丈」発言はケガの功名だが……

問題だらけの英語の「民間試験」見送りは朗報だが、検証するべきはほかにあるのでは

田中秀征 元経企庁長官 福山大学客員教授

問題だらけの英語の「民間試験」

 さて、今回問題になっている英語教育改革は、2013年の教育再生実行会議の提言と大学入試改革に端を発している。この流れのなか、14年末には中央教育審議会が答申で英語教育改革を打ち出した。

 具体的には、大学入試にあたり英語の四つの技能「読む・聞く・話す・書く」を評価すること。そのために、新しい制度を20年度に導入すべきことを答申している。

 言うまでもなく、「読む」「書く」の試験は、従来どおりペーパーテストで学力をはかることができる。しかし、「聞く」と「話す」となると、試験用紙で試験するわけにはいかないし、これを採点して成績化することも極めて難しい。

 そもそも客観評価が難しいことにくわえ、民間業者が試験会場や試験官、あるいは試験問題を用意することは、実際には至難の業だ。また、民間試験の受験料は5000円から2万5000円と言われるが、地方に住む受験生にすれば、さらに交通費や宿泊費を負担しなければならず、重過ぎる負担であろう。

 こうした問題点について、文科省の幹部は官邸との調整に追われた。「遠隔地の学生への交通費支援制度を作り、試験会場を増やす方向で検討しています」。そう幹部は語っている(毎日新聞11月2日朝刊)。

 これに対し、官邸幹部は「難しい。これでは修正したことにならない」と突き放したというが、当然だ。税金による補助制度を、限られた人たちに安易に導入することは、納税者が許さないからだ。

世論によって葬られた

 今回、英語の「民間試験」の導入は先送り、今後1年をかけて新たな制度を検討し、24年度からの実施を目指すとはしているが、結局は断念したということではないか。この制度改革は世論によって葬られたということだろう。

拡大英語民間試験の導入延期を訴える野党集会で、意見を述べる男子高校生(中央)=2019年10月31日、国会内
 受験に関与する一部の人たちが知っていた段階から、いよいよほとんどの人が知る段階に至って「ふりだし」に戻されたかたちだ。全国高校長会は導入の延期を要望していたが、もしすべての人が制度の粗雑な実態を知っていたら、そもそもその準備にさえ入り得なかったことだ。

 英語教育を充実させるなら、中学、高校、大学の授業を強化させる方向でいい。授業の内容や教員を充実させ、「聞く」英語や「話す」英語の習得に、今まで以上に力をいればいいことだ。それなら、さまざまな格差の影響を最小限に抑えることができるだろう。

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筆者

田中秀征

田中秀征(たなか・しゅうせい) 元経企庁長官 福山大学客員教授

1940年生まれ。東京大学文学部、北海道大学法学部卒。83年衆院選で自民党から当選。93年6月、自民党を離党し新党さきがけを結成、代表代行に。細川護熙政権で首相特別補佐、橋本龍太郎内閣で経企庁長官などを歴任。著書に『平成史への証言 政治はなぜ劣化したのか』(朝日選書)https://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=20286、『自民党本流と保守本流――保守二党ふたたび』(講談社)、『保守再生の好機』(ロッキング・オン)ほか多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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