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困っている人とばかり会い続ける

[161]即位の礼、宮城県丸森町、福島県川内村、しんゆり映画祭…

金平茂紀 TBS報道局記者、キャスター、ディレクター

10月22日(火) 朝、NHKの「おはよう日本」で、東電を相手取って「農地から放射性物質を取り除いて」と訴えていた福島のある農家のことを報じていた。その裁判の判決文いわく「原発から飛散した放射性物質はすでに土と同化しているため、東京電力の管理下にはなく、むしろ、農家が所有しているといえる。故に、東京電力に放射性物質を取り除くよう請求することはできない」とは、あまりにも低劣な判決文ではないか。東電刑事裁判の永渕健一判決にまさるとも劣らない非道さだ。

 朝日に「失踪日記」の吾妻ひでおさんの訃報。何だかなあ。ストレスが極限に近くなったので、朝、プールに駆け込んでひたすら泳ぐ。でも1000メートルを超えたあたりで息があがった。ストレスがたまると不規則な飲食になって体重が増える。人間なんて単純な生き物だ。

 雨模様。そのまま東京駅に出たら、駅が異様な状況になっている。そうか。今日は新天皇の即位の礼が行われる日なのだった。東京駅の丸の内口には車が全く通っていない。それに皇居に行く人々が駅構内に溢れている。

 局に行ってテレビをつけたら特番だらけになっていた。テレ朝の「モーニングショー」で「速報 陛下、天照大神に即位礼を奉告」とのスーパーが出ている。こらえながらNHKの特番を見続ける。名古屋大学の教授やら、名前の知らない女性タレントやらが出ていた。例のNHKの政治部女性記者が出ていたが、彼女は政府のマウスピースのような記者なのだが、なぜ即位の礼の特番に出て解説めいたことを喋っているのか、わけがわからないのであった。いつのものように「政府としては……」という語り出しに、本人は何の疑問も持っていないようだった。日本の皇室・天皇ジャーナリズムは明らかに後退に後退を重ねている。もう長い歳月、この仕事をしているから実感としてわかるのだ。

 ただ今回の「即位の礼」の場合、今年の4月30日と5月1日の退位、代替わりの大々的なイベントがあった後なので、「またか」の感が強く、前回ほどの関心を国民にもたれていないようにもみえる。首相の「天皇陛下万歳」三唱に、一体いまはいつの時代かと思った。民放のテレビのワイドショーで、悪天の中、一瞬「虹がかかった」だのを大喜びしているコメンテーターを見ながら、台風被災地取材の準備を進める。

「即位礼正殿の儀」で、「高御座」に立つ天皇陛下に向かって、即位を祝う万歳をする安倍晋三首相=2019年10月22日午後1時24分、皇居・宮殿の正殿・松の間20191022「即位礼正殿の儀」で、「高御座」に立つ天皇陛下に向かって、万歳をする安倍晋三首相=皇居・宮殿の正殿・松の間

被災者に会い続けるのは、つらい

10月23日(水) 英フィナンシャル・タイムズが、中国が香港の林鄭月娥行政長官の更迭を検討していると報じたようだ。大阪の情報源から、関西電力の関係で情報提供あり。夜、大阪で直接会うことに。

 午後、即位の礼の国賓として来日しているイランのラアヤ・ジョネイディ副大統領にインタビュー。滞在先の帝国ホテルで。厳重なボディチェックを受けた後、40分以上にわたって語っていただいた。法律担当の女性の副大統領で、聡明な印象。内容はここには書けない。20時半から伊丹空港でI氏。面白い。

10月24日(木) 朝8時の伊丹発の便で仙台へ。ところが伊丹空港のターミナルビルがめちゃくちゃに混んでいる。「即位の礼にともない、ただいま保安検査場の検査を強化させていただいております」とのアナウンス。おととい即位の礼は終わっていて、それは東京でのことだ。どうして大阪でこんな目に遭うのか。長蛇の列ができている。上着を脱げ、パソコン、シェイビングクリームのスプレー缶を出せ、くるぶしより深い靴は脱げ等々、ものすごく細かいことを言ってくる。

 仙台から丸森町へと向かう。丸森町役場でTディレクターらと合流。町役場の前の広場は災害ゴミ置き場と化していた。町民が車で次々にゴミを運び入れて来ていた。自衛隊員が高齢者らを手伝っている。ゴミのなかでも目立っているのは畳だ。いったん水没した畳は水を吸ってずっしりと重くなり、使い物にならなくなっている。おびただしい数の畳ゴミが積みあがっていた。そればかりか電化製品の山。一番たちが悪いかも。電気冷蔵庫、液晶テレビ、洗濯機、扇風機等々。

仮置き場に積み上げられた台風19号による「災害ごみ」=2019年10月23日、宮城県丸森町仮置き場に積み上げられた台風19号による「災害ゴミ」=宮城県丸森町

 その後、役場から近い場所の一軒家を訪ねた。宮城県の亘理町で3・11津波で被災して夫を家もろとも失った婦人・渡辺すみよさん(79)の自宅だ。夫と自分のふるさと、丸森町に移ってきて、終の棲家を建てた渡辺さんの話は、取材していてもつらすぎて、軽々に言葉を発したくない気持ちになる。終の棲家は浸水したが、夫の仏壇の遺影の下で浸水は止まったのだという。

 僕ら以外のマスコミの記者たちの名刺が無造作に小箱のなかに置かれていた。もうかなりの記者やカメラマンたちが渡辺さんのもとを訪れたのだろう。一番聞きづらいことを聞いた。「これからどうされるのですか」。

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