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GSOMIA失効目前、日本政府へ緊急提言する 

安全保障の観点から、日本側がイニシアティブをとるべし

登 誠一郎 社団法人 安保政策研究会理事、元内閣外政審議室長

GSOMIAの失効回避がまず第一歩

 韓国政府がGSOMIA(軍事情報包括保護協定)破棄の通告を取り消すか、または日韓両国が協定の暫定的な延長に合意しない限り、これは11月23日午前0時に失効する。その意味するところは単に日韓の関係悪化を一層進行させるのみならず、東アジアの安全保障の構図に大きな変化をもたらすことが深刻に懸念される。

 北朝鮮は、トランプ大統領による融和的な言動と文在寅大統領の親北政策につけこむように、本年に入ってからもミサイル発射を繰り返し、また韓国を日米から切り離すべく種々画策している。この北朝鮮にとってGSOMIAは目の上のたん瘤のような存在であり、これが失効することは、ひたすら北朝鮮を利することになる。

 従って、米国も11月初めに国務次官補を派遣して、在韓米軍の駐留費増額をもちらつかせながら韓国の説得に努めたが、韓国の態度には変化が見られなかった。

 この状態に危機感を抱いた米国政府は、15日からエスパー国防長官を韓国に派遣して、GSOMIAの暫定延長を視野に、ハイレベルで韓国側と協議すると報じられている。

韓国を訪問したスティルウェル米国務次官補(右)と康京和外相(右から2人目)=2019年11月6日、ソウル、東亜日報提供

韓国側はどう対応するのか

 11月8日の韓国国会において康京和外相は、GSOMIAの破棄は北朝鮮と中国を利するのではないかとの質問に対して、その可能性を認めた上で、「破棄の決定は、日本の輸出管理措置に対応するものなので、日本がそれを撤廃すれば、韓国もGSOMIA破棄の決定を見直す可能性がある」との趣旨を述べている。

 GSOMIAの破棄を日本のせいにするという韓国の対応は全く理不尽であるが、文政権を後押しする世論も強硬なので、韓国政府が何らかの譲歩をするためには、国民に説明する材料が必要である。

 日本政府がこれまでのように、韓国を一方的に突き放す対応をしている限り韓国側の態度は変わらず、時間だけ無為に過ぎてGSOMIAは失効し、韓国は益々北朝鮮と中国に接近するようになり、東アジアの安全保障構図も日本に不利に展開し、東アジア情勢の安定が損なわれる恐れが強い。

 GSOMIA失効ギリギリのタイミングで米国国防長官が韓国説得に乗り出したということは、このような趨勢を深刻に懸念したからであろう。

協定の暫定延長は可能か

 7月初めに輸出管理強化措置を発動した以降、日本政府は「問題の本質は徴用工問題に関して韓国政府が適切な国内措置を取ること」として、ボールを韓国側に預けたまま静観してきた。

 しかし、問題が日本を含む東アジアの安全保障にからむまで拡大し、米国も真剣に仲介に乗り出している今日、日本政府はこのまま静観の姿勢を貫くことが正しい判断であろうか?

 GSOMIAの失効まで既に1週間余となった現在、日本政府として、韓国側による戦略物資輸出管理上の適切な対応のないまま、対韓輸出管理の強化策を緩和することは考えられないので、この時点で韓国がGSOMIAの破棄決定を完全に取り消すことは期待できない。

 協定の期間延長に関する規定は、一方の当事国からの終了通告がなければ1年間の自動延長であり、暫定的な延長の規定はない。ただ、この協定は国会承認条約ではなく、単なる行政協定であるので、双方が合意すれば簡単な取り決めを結んで、暫定的に延長することは十分可能と思われる。

 しかし韓国の立場からすると、米国による説得だけで、何の見返りもなしに暫定延長に合意することは国内世論との関係で困難であろう。他方、それを可能とするための具体的な内容を伴う措置について日韓両国で合意する時間もない。

 以上を総合的に考えると、GSOMIA失効を回避するための唯一の方法は、11月23日以前に、米国による仲介も踏まえて、日韓両国が、関係修復のための今後の手続きについて明確な合意をすることである。

東アジア地域包括的経済連携(RCEP)首脳会議の冒頭、軽く握手した安倍晋三首相(左)と韓国の文在寅(ムン・ジェ・イン)大統領=2019年11月4日、バンコク近郊

日韓首脳の電話会談による日韓協議の立ち上げ

 11月15日のエスパー国防長官による韓国側との協議は極めて重要であるが、日本もそれを傍観するのではなく、日本として受諾可能なぎりぎりのラインを予め米側に示して側面から協力することが必要である。

 そして米韓協議を踏まえて日韓両国の首脳が電話会談を行い、「日韓関係の一層の発展のためのハイレベル協議」(仮称)の設立に合意することを提言したい。

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