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公開情報不開示も結果オーライ 驚愕の閣議決定

外務省のずさん対応に反省見えず 安倍内閣に当事者能力はあるか

藤田直央 朝日新聞編集委員(日本政治、外交、安全保障)

今回の公開情報の不開示が情報公開制度の趣旨に反するのではないかとの指摘に「御指摘は当たらない」とした安倍内閣の11月8日の答弁書

 外務省が朝日新聞社による日米関係の文書開示請求に対し、外交や安全保障に支障が出かねないとして半世紀前の情報を伏せていた。支障はないと第三者機関に判断され、2年4カ月後にようやく出したその情報の中に、何と自身がHPで公開し続けている内容があった――。

 この奇怪な「不開示問題」の詳細は、先日の論座「公開文書が不開示! 外務省の噓を生んだ闇」でお伝えしたところだが、このたび安倍内閣が驚くべき見解を示した。「情報公開制度の趣旨に反するとの御指摘は当たらない」という答弁書を閣議決定したのだ。

 安倍内閣における政府の説明責任や公文書管理の劣化ぶりは、昨年に発覚した森友問題での財務省の決裁文書改ざんが記憶に新しいが、筆者も外交分野に関し論座「安倍外交は採点不能、よくて赤点」などで指摘してきた。それが極まった感のある今回の答弁書について報告する。

 この答弁書は、NHKから国民を守る党の丸山穂高衆院議員の質問主意書に対し、11月8日に閣議決定されたものだ。国会法では、国会議員が文書で提出する質問主意書に対する内閣の答弁義務を定めており、衆院HPには衆院議員と内閣のやり取りがこの通り載っている。

 衆院議員の質問主意書と政府の答弁書の一覧

 私は同党や丸山氏の主張については賛同しないことが多いが、所属議員数が少なく国会での質問時間確保が難しい政党の議員にとって、質問主意書は内閣の見解をただす貴重な手段だ。丸山氏の質問主意書を見る限り、今回の不開示問題では問題意識を共有できていると考え、筆を進めることにした。

朝日新聞記事で議員が質問

 丸山氏は、今回の不開示問題を最初に朝日新聞が10月27日付の朝刊1面で報じた記事「外務省、公開済み内容を不開示に 沖縄返還文書など」をふまえ、質問主意書でこう問うている。

 「すでにホームページ等により一般に提供されている情報について『不開示情報』としたこととなり、情報公開制度の趣旨に反することにならないか」

 ちなみに「情報公開制度の趣旨」だが、これは2001年に施行された情報公開法の1条に明瞭なので紹介しておく。

 「この法律は、国民主権の理念にのっとり、行政文書の開示を請求する権利につき定めること等により、行政機関の保有する情報の一層の公開を図り、もって政府の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにするとともに、国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資することを目的とする」

 だが、安倍内閣は丸山氏に「御指摘は当たらない」と答えたのだ。一体どういう理屈なのか。答弁書には概略、こうある。

 「外務省としては慎重に検討した上で、情報公開法に基づき部分開示の決定をした。行政不服審査法に基づき審査請求がされ、情報公開法に基づき情報公開・個人情報保護審査会に諮問し、同審査会からの答申に理由があると判断したことから、行政不服審査法に基づき当該決定を変更し、開示した」

東京・霞が制の外務省

 確かに最初は情報を一部伏せたが、不服を申し立てられたので法律の手続き通りに対応し、最終的には明らかにした。結果オーライで情報公開制度の趣旨に沿っているではないか――。こう言わんばかりだ。

「慎重に検討」でこれ?

 この主張自体がいかに情報公開制度の趣旨に反しているかを、朝日新聞社としてこの開示請求をした私からぜひ指摘しておかねばならない。こうした答弁書が閣議決定されてしまったことが、政府による情報公開制度の運用のさらなる劣化を招きかねないからだ。

 以下、答弁書に沿って説明する。

 安倍内閣は答弁書でまず、私が1960年代後半の日米関係について取材するために行った今回の文書開示請求について、「外務省としては慎重に検討した上で、情報公開法に基づき部分開示の決定をした」とする。

 外務省が部分開示(つまり一部不開示)と決定したのは2017年7月。同年3月の私の開示請求に対し、情報公開法が定める原則30日を特例で延長した末だった。しかし、「慎重に検討した上」の結果はどうだったか。

 後に判明するように、外務省の当時の決定により不開示とされた情報の中には、外務省自身がHPで公開し続けている文書と同じ内容の情報が含まれていた。HPでの公開が始まったのは、日米安保体制をめぐる過去の密約を調査するなど外交文書公開に積極的だった民主党政権下の2010年まで溯る。

民主党政権当時の2009年9月、日米密約調査の状況について外務省幹部に話を聞く岡田克也外相(左)=外務省。代表撮影

 それから7年も後の私の開示請求に対し、外務省はこの情報を不開示にした理由について、「国の安全が害される」「米国等との信頼関係を損なう」などのおそれがあると主張した。確かに情報公開法には、外交や安全保障に支障が出かねない情報は不開示にできる規定があるが、自身が公開し続けている情報がそれにあたらないことは明らかだ。

 つまり、外務省による2017年7月の最初の不開示決定は、公開済み情報に関しては情報公開法の適用を誤っており、明らかに情報公開制度の趣旨に反している。外務省が「慎重に検討した上」での決定にも関わらず、自身が公開し続ける情報との照合ができていなかったのなら、情報公開制度を運用する能力すら疑わしくなる。

「法に基づき」と弁明

 次に安倍内閣の答弁書は、外務省が当初の決定を変更し、不開示としていた情報を開示するに至った経緯について、「行政不服審査法に基づき審査請求がされ、情報公開法に基づき情報公開・個人情報保護審査会に諮問し、同審査会からの答申に理由があると判断したことから」と法律上の手続きを縷々記している。

 この弁明ぶりにも情報公開制度の趣旨への鈍さが露呈しているのだが、法律上の手続きについて少し補足しておく。

 中央省庁に文書開示請求をした者が不開示決定に不服の場合は、第三者機関である総務省の情報公開・個人情報保護審査会による審査を求めることができる。同審査会から不開示部分を開示するよう答申がされた場合、その「理由」に当該省庁が納得すれば答申の通りにする。情報公開法と行政不服審査法に基づく仕組みだ。

 では今回、問題の情報について外務省が決定を不開示から開示に変更する根拠となった、総務省の審査会の答申に示された「理由」とは何だったのか。

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