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若者達の信念が香港人の心の境界線を乗り越えた

【1】香港汎民主派 公民党・陳淑荘議員

清義明 ルポライター

香港の出口はどこにあるのか

 激動の香港が終わりをみせない。

 6月に発生した大規模なデモと暴動は5カ月以上も続き、かえって過激化の度合いを深めているようにも見える。

 筆者が最初に香港に取材した6月にはプロテスター側のシンパは、このデモが非暴力であることを強調し、なかには過激な行為をする若者や香港の立法会(議会)に突入した一団を、「中国共産党がワザと騒乱を大きくするために雇ったヤクザだ」というような陰謀論も大真面目に語られていた。しかし実際は違った。

 ネットでの匿名の議論と正体不明の指揮系統のもと、号令直下に機動隊にむかってプロテスターは突撃し、火炎瓶や、威力は小さいものの時限爆弾もどきのものまで現れている。そしてそれは今や白昼堂々と行われている。一般市民の大半がこの闘争を支持しているからだ。ルソーがいう「一般意志」が香港に吹き荒れている。

 現在の香港では、民主的な政体であれば政権が交代したりするはずの民主主義の安全弁が全く機能していない。法治すらも「造反有理」の論理が横行している。一方で行政府は対話を呼びかけながらも、取り締まりは強化させていき、これに不満を覚えたプロテスターはさらに過激化し、いたちごっこの末に追い詰められるようにして、かえって香港警察は暴力行使の度合いを高めている。すでに警察側の発砲は珍しくないものとなった。プロテスター側には死者も出ている。行き場を失った堂々巡りである。

 その香港がなぜこうなったのか。その出口はどこにあるのか。そのヒントをつかむために、3人の民主派の識者に話を聞くことにした。暴風の香港の「一般意志」の輪郭をたどりたい。

「今後もクリエイティブな抗議方法を考えます」

民主派の公民党・陳淑荘議員(写真はいずれも筆者撮影)

 まずは6月から4カ月以上にわたり抗議運動と騒乱が続いた末に、10月16日に再開された立法会で、ひと際目立つ議事の妨害をしていた議員に話を聞いた。香港の野党勢力である汎民主派の公民党の女性議員である陳淑荘(タンヤ・チャン)氏(48)である。

 陳議員は、立法会の開催中に抗議の意味を表すために、プロジェクターで演説中の林鄭月娥行政長官の背後に抗議デモのスローガンを投影した。

 「ああいうところでプロジェクターを使ったのは初めてですね。今後もクリエイティブな抗議方法を考えますよ(笑)」

 この再開された立法会の初日は、このような議事妨害が立て続けに起きて、予定された、林鄭月娥行政長官の施政方針演説は急遽取りやめになり、あらかじめ録画し用意されていた映像が議事堂に流れたという。野党は今の状態では議論すら求めていないということなのだろう。

 陳議員は2014年の雨傘運動での「オキュパイ・セントラル」を呼び掛けた不法行為とそれを扇動した罪で禁固刑の有罪判決が6月に下っている。しかしこの判決のタイミングの前後に発見された脳腫瘍の治療の必要もあり、この禁固の執行は2年間猶予された。陳議員とともに、雨傘運動の占拠行為の呼びかけ人となった8人のうち、香港大学の戴耀廷准教授、香港中文大学の陳健民元准教授、朱耀明牧師はこれにより禁固1年4カ月の実刑判決が下っている。

 病状を陳議員に聞くと、ショートヘアーの後頭部をかきわけて手術跡を見せてくれた。腫瘍はピンポンボールほどの大きさだったという。驚くのはそんな手術の後に、すぐに現在の抗議運動に舞い戻り、さらには執行猶予の身でありながら、現在も抗議運動に参加し、そして先の立法会のブロジェクター投影のようなアクションを続けていることである。

 そして、彼女の身の回りもただならぬことが起きている。香港の大規模な非暴力デモを主催する民間人権陣戦の代表であり、陳議員の10年来の友人で同志という、岑子傑(ジミー・シャム)が、このインタビューの直前に何者かによって襲撃されたのだ。

 岑をハンマーやスパナで襲撃した4人の実行犯はイスラム系の南アジア人だが、これはイギリス統治時代から香港に深く根付いているインド・パキスタン系の人たちのことだ。

 民間人権陣戦は様々な政治思想をもつ人たちの連合体である。6月に香港史上空前の200万人のデモを動員したのは、この民間人権陣戦である。岑子傑は、このデモの呼びかけ人でもあるが、同時に激進民主派ともいわれる急進的な民主改革を目指す政党の社会民主連線に所属している。政治的なイシューとしてLGBT問題を掲げた活動家としても知られている。彼自身も同性愛者であることを公言しているため、そのことが保守的な道徳観を持つ人たちに批判され続けている。また、11月地方選挙では、新界地区の沙田からの立候補を予定もしている。この事件に先立つ8月にも彼はバットや刃物をもった覆面の二人組に襲われている。この時の襲撃犯の一人は15歳の少年だった。事件はこれに続くものだ。

 「まずこの事件の背景として考えられるのは彼の政治的な立場でしょう。民間人権陣戦のデモの呼びかけ人であるということも関係あるかもしれませんが。ただ、そのへんは複雑すぎて簡単に判断することはできないとも思います」

警察への不信はピークに

 いずれにせよ、香港で反政府運動側に対する「白色テロ」めいた暴力的な事件が起きていることは間違いない。7月21日に香港の郊外の旧都の元朗でおきた事件(注1)は警察とヤクザの癒着が背景にあると言われた。警察側に対する不信感もピークに達している。今回の騒乱と民主化デモが混乱を招いているのは警察の過剰な弾圧と暴力が原因であると、大半の香港市民は考えている。そしてそれが暴力的な若者の行動の原因となっているというのだ。

 「私たち香港人は、警察を信じていました。けれど、容認できないような暴力を市民に使ってしまいました。市民は不平等だと感じています。2014年雨傘運動の時、警察がやりすぎた場合、逮捕されたり、裁判にかけられたりしましたが、今回の運動が始まって5カ月、一人の警察官もそのようなことになったことがありません」

機動隊

 さらには、警察による逮捕されたへの虐待や、さらには何らかの理由でプロテスターに死者が出ているのではないかという疑惑が香港警察には突き付けられている。抗議運動で死者が出たり、女性が警察に拉致されて、殺されて海に水死体として発見されたというようなことも、警察側は公式に否定していながらも、問題視されている。

 なお、水死体として発見された女性は、母親とされせる女性が警察が介在して殺されたというようなことはデマと否定しているが、プロテスター側は、その母親とされる人はなりすましで本物の母親ではないと、なおも警察に対する事実の究明を

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