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平和的デモは役立たないとあなた達が教えてくれた

【2】民主派団体 民間人権陣戦副代表・黎恩灝

清義明 ルポライター

香港の「一般意志」【1】陳淑荘

合法的に組織化されたデモにも大きな力

 香港の抗議運動は主に幅広い支持を集めている、既存の政治勢力を含めた民主派と、かたや全く組織化されていない若者たちの抵抗運動が両輪となって展開されている。

 今回話を聞いたのは民間人権陣戦(以下、「民陣」)という民主派の連合組織で、そのデモの主催者となっている。この団体が主催した6月9日のデモには主催者発表で100万人、この翌週には200万人と言われる人たちを動員した。香港の人口は約740万人なので、香港市民の1/4が参加したことになる。(ただし、警察発表は約33万人、香港大学の社会学教授の葉兆輝は50~80万人と推計値を算出)。いずれにしても、香港史上稀にみる大規模なデモとなったことは間違いない。

 その民陣は、人権問題をテーマにした組織横断型の集合体だ。49の様々な団体から成り、その立ち位置も幅広く、例えば前回のインタビューで話を聞いた陳淑荘(タンヤ・チャン)議員が所属する香港立法会の第二野党である公民党や、その他の野党民主派も参加しているほか、キリスト教の宗教団体、LGBT運動の組織、学生団体、女性運動団体、マイノリティーの権利団体なども含まれている。

 香港の現在の騒乱はリーダーのいないアナーキーなものとなっていると知られているが、これはそのような非合法の抗議活動に限る話で、合法的に組織化されたデモも大きな力をもっている。むしろ、こちらが本来の民主運動のはずだ。この民陣がどのようなスタンスでデモを組織し、現在の香港情勢をどのように考えてコミットしているのか、それを知りたい。副代表の黎恩灝(エリック・ライ)氏(31)に、彼が政治学の講師を務める香港浸会大学(香港バプティスト大学)のキャンパスで話を聞くことになった。

拡大民間人権陣戦副代表・黎恩灝氏(写真はいずれも筆者撮影)

「すべての人間は、生まれながらにして自由である」

 1994年に設立されたこのキリスト教系の大学のキャンパスに足を踏み入れた途端に、様々なビラやスローガンが書かれた貼り紙が至るところに貼られているのに圧倒された。そのほとんどすべてが今回の民主化運動のものだ。床にはスプレー書きで、「香港人反抗」と大書され、クラスに向かうはずのエレベーターの入り口には「罷課」とペンキで殴り書かれている。学生は授業ボイコットも呼びかけているのである。

 「今年の9月からこの大学で授業を受け持ったばかりですが、私が知る限り、9月の第1週の授業ボイコットは半分以上の学生が参加していました。抗議運動で前線で戦うコアな人たちもいます。ここの学生会の会長は2回警察に逮捕されています」

拡大「罷課(ボイコット)」と書かれた香港浸会大学のエレベーター

拡大香港浸会大学のキャンパス

 学内の様子についての質問に答えながら、黎氏から渡された名刺を裏返すと、国連の世界人権宣言の第一条「すべての人間は、生れながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である」との一節が書かれている。

 このインタビューが行われた時点で、民陣の代表である岑子傑(ジミー・シャム)はまだ入院中だ。前回の香港公民党の陳淑莊議員の記事で触れたとおり、正体不明の南インド系の暴漢達に襲われたからだ。

 「彼が襲われた夜、私たちは彼と会議をする予定で、彼が襲われた場所の上のオフィスにいました。彼が襲われてすぐに助けに行き、一緒に病院にも行きました。本当に驚きました。今回を含めて彼が襲われたのは2回目です。私はその時も彼と一緒に病院にいきました」

 前回のインタビューで陳議員はこの犯行について、複雑な背景があると説明してくれたが、黎氏はさらに踏み込んで説明してくれた。

 「この襲撃事件については諸説ありますが、マフィアが誰かを雇ったと言われています。では誰がマフィアにやらせたか。香港では昔からよくあるケースは、国家安全部(中国の情報機関)か中連弁(香港における中国の政治機関)がコントロールしているというものです。証拠があるわけではありませんが、7月から頻発しているデモ参加者への暴力事件はすべてマフィアが背後にいると思います。そしてそのマフィアの背後には中連弁がいます。この説が一般的なものです」

 「もう一説は地方のヤクザの犯行というものです。かつての襲撃事件のメンバーも地方のヤクザだったからです。もう一説は香港の宗教的マイノリティー集団の犯行というものですが、この説には証拠もなく、さらに香港の人種間の問題をはらむものですので、私たちはこの説を支持していません」

 この襲撃事件は南インド系の犯人がすでに捉えられており、警察はその背後関係を探るとしている。しかし、ムスリムのインド系の犯行であり、その同性愛嫌悪の思想からLGBTの活動家である彼を襲ったのではないかという線も残念ながら捨てきれないのだ。現在の香港では、いたるところに憎悪と暴力が気化したガソリンのように漂う。黎氏がマイノリティー問題を惹起させるような説を支持できないというのはこういう意味もある。

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筆者

清義明

清義明(せい・よしあき) ルポライター

1967年生まれ。株式会社オン・ザ・コーナー代表取締役CEO。著書『サッカーと愛国』(イースト・プレス)でミズノスポーツライター賞優秀賞、サッカー本大賞優秀作品受賞。