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アベノミクスの目玉・国家戦略特区の大いなる欠陥

「評価・対応」なき制度につきまとう「利権」のわな。特区制度自体を評価すべき時期に

米山隆一 衆議院議員・弁護士・医学博士

特区は「利権」となりうるか否か?

 残りの330事業においては、いま現在それぞれの特区・事業に対してそれぞれの事業者が選定され、事業を行っています。“有名な”ところでは、広島県・今治市の「獣医学部の新設に係る認可の基準の特例」における加計学園があり、私が知事をつとめた新潟県にも「農家レストラン設置にかかる特例」の農家レストランがあります(「こちら」参照)。

 これらの特区が、理念はともかく現実として「利権」となりうるか否かについて、私の地元新潟県にもある「農家レストラン」(新潟市4事業者の他に、東京圏1事業者、関西圏4事業者、養父市1事業者、愛知県3事業者、沖縄県1事業者の合計14事業者が認定されています)について考えてみましょう。

「農家レストラン」の場合の考察

 「農家レストラン」とは、本来農業用の施設しか設置できない「農用地区域」内に、一定の条件を満たすレストランを「農業施設」として設置できるようにするものです。「農家レストラン」の規制改革で懸念される事項としては、レストランが流行りすぎて「農業用地区域内」に次々と「農家レストラン」が設置され、「農用地区域」での農業が阻害される事ぐらいですが、市街地から離れた農地にたくさんのレストランが存立できるはずはなく、新潟の農家レストラン設置区域においても、特区事業が認定されてから5年経った今に至るまで、そのような事態が起こっているとは聞いていません。

 そうである以上、「農家レストラン」は早々に全国措置によって全国的制度にしても良さそうなもので、そうなれば「全国で農家レストランを運営可能」になりますから、たしかに事業者の「利権」や、それを前提にした「利益相反」の問題は生じません(仮に今までの5年間に「利権」や「利益相反」があったとしても、消えてしまいます)。

 しかし、5年たった今でも「農家レストラン」は、基本的には全国で6地区の14事業者しか運営できません。仮に「農家レストラン」がタピオカミルクティーのように大人気で、全国に農家レストランに行きたいお客さんが山の様にいるという事であれば、日本中のお客さんがこの14事業者のレストランに殺到し、にもかかわらず他の事業者はそれをできないのですから、たとえ将来的な全国措置を見据えた期間限定のものだとしても、それは「利権」となりえます。

 そして、それが期間限定ではなく、事実上永続的にこの14事業者しかできないとなれば、それは紛( まご) うことない「利権」としか言いようがなくなるのです(ただし、実際の「農家レストラン」に関して言えば、そもそも農用地区域外の普通の市街地で農家が運営する特区外の農家レストランも多数あり、人口の少ない農用地区域内でレストランをやりたいという需要が特に高いわけではないので、ほとんど問題となっていません)。

加計学園の獣医学部の場合の考察

 それでは、有名な「加計学園」の場合はどうでしょうか。この例では、首相の「腹心の友」である加計孝太郎氏が理事長を務める加計学園が、提案に関与した事が認められている(朝日新聞デジタル2017年8月6日)「獣医学部の新設に係る認可の基準の特例」の規制改革として、第25回国家戦略特区諮問会議(平成28年11月9日)の決定に従って「1校に限り」獣医学部の新設が認められ、特区として広島・今治の国家戦略特区が、事業者として加計学園が運営する岡山理科大学が選定されました。この際、岡山理科大学が新設した獣医学部の定数は、既存の日本全国の獣医学部の定数790人に対して140人という極めて大きなものでした。

 今後の日本の人口減や獣医師の需給を考えると、追加の新設が認められるとは考えづらく、一定の期限内に「全国措置か廃止か」の対応を定めない現在の国家戦略特区の制度・運用からしても、この「獣医学部の新設に係る認可の基準の特例」が適用されるのは、今後相当長い期間、加計学園以外には出てこないと考えられます。つまり、そもそもこの規制改革は、今後相当長い期間、加計学園一事業者にしか適用されないのであり、「実現すれば提案者だけでなく、広く一般に適用される」「規制のサンドボックス(砂場)」であるはずの特区制度の対象となるようなものではないのです。

 要するに、国家戦略特区は、短期間にその評価がなされ、全国措置されるか廃止されるような規制改革を対象とし、実際にそのような対応がなされてはじめて、「規制改革のサンドボックス(砂場)」として、八田座長の言うように「提案者だけでなく、広く一般に」利益をもたらすものとなるのですが、現在のように、そうした対応に適さない規制改革が対象とされたり、そうした対応が可能なはずの規制改革であっても、その大半(335事業のうち330事業=98.5%)で見られるように、いったん事業が認定され、事業者が選定されると、長期間にわたって選定された事業者だけに事業の運営が許されたりするのであれば、「特定の事業者のみが特別な事業を行う事を許された特別な区域」としての「特区」に外ならず、利権そのものになってしまうのです。

拡大国家戦略特区諮問会議であいさつする安倍晋三首相(右手前から3人目)=2019年6月11日、首相官邸

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筆者

米山隆一

米山隆一(よねやま・りゅういち) 衆議院議員・弁護士・医学博士

1967年生まれ。東京大学医学部卒業。東京大学医学系研究科単位取得退学 (2003年医学博士)。独立行政法人放射線医学総合研究所勤務 、ハーバード大学附属マサチューセッツ総合病院研究員、 東京大学先端科学技術研究センター医療政策人材養成講座特任講師、最高裁判所司法修習生、医療法人社団太陽会理事長などを経て、2016年に新潟県知事選に当選。18年4月までつとめる。2022年衆院選に当選(新潟5区)。2012年から弁護士法人おおたか総合法律事務所代表弁護士。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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