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リスペクトする野球を知ったタンザニア

野球人、アフリカをゆく(16)ボールを投げそのボールを打つ。そこから野球は始まる

友成晋也 一般財団法人アフリカ野球・ソフト振興機構 代表理事

相手に対するリスペクト

 試合後。あらためて小山さんに意図を訊くと、明快な答えが返ってきた。

 「野球の原点は、投手がストライクを投げて、バッターが打つ。これが原則なんですよ。せっかくいいボールが来ても、打者はランナーが盗塁で進塁するのを待ってしまう」

 「でも、1点でも多く点を取り、勝つことを目指すのが野球じゃないんですか?試合がだらけてしまうというのは確かによくないですが、彼らは勝ちたいんです。一生懸命になることを妨げるのは、納得しがたいです」と思わず反論する私。すると小山さんはこんなことをいう。

 「国際大会で点差が開くと、勝っているチームの投手は相手にまっすぐしか投げない。ランナーは盗塁しない。これがマナーなんですよ」
「えっ?」
「野球はチーム力に差が出やすいスポーツです。実力差があるのは仕方ないこと。でも、野球の最も基本的なことは、投手はストライクを投げ、打者はストライク、つまり、打つこと、なんですよ。実力が拮抗(きっこう)してくれば変化球や機動力を使って勝ちに行くのは自然でしょう。しかし、圧倒的に実力があるチームが相手に打たせない、戦意を喪失させるようなことをする。これはフェアじゃないんですよ」

 「同じ条件の中で戦い、自らの実力を存分に発揮することこそがフェアじゃないんですか?」と食い下がる私に、小山さんは意外な言葉を使った。
 「その考えは、相手に対するリスペクトがないんです」

真のフェアプレー精神

 「えっ?リスペクト、ですか?」
 「相手がいるから試合ができる。審判がいるから試合ができる。観客がいるから頑張れる。そうした環境の中でやるのが野球なんですよ。相手に実力を発揮させる機会を提供するのは、相手に対するリスペクト。そして、フェアプレー精神なんです」

拡大アブダラ主将が先頭に立つ練習風景。主将(先頭左)の掛け声で全員が一つになる。
 「ちょっと待ってください。相手が弱いからと言って、手を抜くことこそ、相手に対するリスペクトがないんじゃないですか?どんな相手であっても全力を尽くすことが、最大の敬意を示すことになるんじゃないですか。私はそう教わってきました」

 「それが日本の野球の間違ってしまっているところなんです。日本はワールドランキング第1位の国ですが、そうしたマナーがまったくなっていません。勝つことが第一になってしまっている。勝つことを目指すのは大事ですが、そのために何をやってもいいという事ではない。フェアプレー精神からずれてしまっているんです」

 頭の中が混乱していた。全力を尽くすことがいけないこと?手を抜くことがリスペクト?
フェアプレーって、そもそもなんなのだろう。

投げて打つ。それが野球の原点

 この日の試合はすべて終了しており、グラウンドもすっかり日が暮れてきたので、いったん解散し、グラウンドを後に。その後、宿泊先の近くの中華レストランで、小山さんとの議論が再燃した。

 「友成さん。何でストライクというか知ってますか?」
 「ストライク、は英語で打つ、という意味ですよね」
 「審判が、ストライクゾーンに投げられたボールを打たないときに、ストライク!と言いますよね。これはすなわち、いいボールなんだから、打て!と審判がバッターに促しているんですよ」
 「えっ?そういうもんなんですか?」
 「だって、ストライクは打て!なんですから」
 「まあ、確かに、グッドボール!とは言いませんね…」
 「友成さん、野球の本質はそこにあるんですよ。投手は打ちやすいゾーンにボールを投げる。バッターはそのボールを打つ。そこから野球は始まるんです」

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筆者

友成晋也

友成晋也(ともなり・しんや) 一般財団法人アフリカ野球・ソフト振興機構 代表理事

中学、高校、大学と野球一筋。慶應義塾大学卒業後、リクルートコスモス社勤務を経てJICA(独立行政法人国際協力機構)に転職。1996年からのJICAガーナ事務所在勤時代に、仕事の傍らガーナ野球代表チーム監督に就任し、オリンピックを目指す。帰国後、2003年にNPO法人アフリカ野球友の会を立ち上げ、以来17年にわたり野球を通じた国際交流、協力をアフリカ8カ国で展開。2014年には、タンザニアで二度目の代表監督に就任。2018年からJICA南スーダン事務所に勤務の傍ら、青少年野球チームを立ち上げ、指導を行っている。著書に『アフリカと白球』(文芸社)。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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