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『主戦場』が上映された

[162]しんゆり映画祭、『ジョーカー』、東京五輪のマラソン会場問題……

金平茂紀 TBS報道局記者、キャスター、ディレクター

10月29日(火) 午前中「報道特集」の定例会議。13時からケン・ローチの新作『家族を想うとき』をみる。個人的には、テーマは重なるが『わたしは、ダニエル・ブレイク』より好きだな。終わり方もいい。でも、この邦題は何とかならないのかな。原題は「Sorry We Missed You」。宅配の人が訪ねた時、相手が不在だったら残していく紙の決まり文句だ。日本だと「不在配達証明」という無機質な表現だが、イギリスでは「お会いできず残念です」というニュアンスの表現となる。だが、この表現が、いかに非人間的なのか、偽善なのかが映画をみると逆に浮かびあがってきて、何とも凄いタイトルなのだった。

 夕方、元日産の代表取締役グレッグ・ケリー氏のインタビュー取材に関わった人たちの寄り合い。

10月30日(水) 朝、早起きしてプールへ。いつもの半分くらい泳ぐ。午後、早稲田の教え子2人が訪ねてくる。

 夜、KAWASAKIしんゆり映画祭の『主戦場』上映中止問題に関わる経過説明の市民集会。会場に入りきれないほどの市民が訪れていた。入りきらない人は1階の上映会場で生映像をみていた。集会を仕切っている人たちが実にテキパキしていてヤル気が感じられた。神奈川新聞の記事などが市民の関心を呼ぶきっかけになったのだろう。メディアの人間として、と同時に、映画ファンの一市民として参加した。

上映中止について語るイベント『主戦場』の上映中止(その後上映)について議論する集会=2019年10月30日

 主催者側代表の説明を聞いていて、いたたまれなくなって挙手して発言もしたが、何と言うか、こちらの言っていることの意味が相手にちゃんと理解されていないことがわかった。彼は、誰から何を守っているのだろうか。組織の脆弱さを露呈してしまったと釈明していたが、個人の脆弱さと言うべきではないか。会場には『創』の篠田博之さんや、綿井健陽さんがいた。

 だが一番驚いたのは、僕が座っていた会場の最後方に、『主戦場』のミキ・デザキ監督と配給の「東風」の方々が来ていて、発言したことだった。デザキ監督は、このままでは「日本の表現の自由を守る動きにダメージを与える。脅しにいつも屈していると言論の自由がなくなることを心配している」とまっすぐに語っていた。「東風」の代表は感極まって泣き出していた。

 1階に下りて行ったら、集会に加わらない映画祭関係者たちがいた。なぜ集会に立ち会わないのかと聞くと「私たちはあなた方のように言葉を持っていない。あんな場に出ていくのは怖い」という趣旨のことを言っていた。「ただただ楽しい映画のお祭りを続けていきたいのよ。政治的なことは全くわからないのよ」と。何だか、力が抜けるような発言だった。ならば、無料でディズニー映画や当たり障りのないアニメ動画を一日中かけていればいい。

 映画祭は、それぞれ個性があっていい。しんゆり映画祭はこれまでも個性的なプログラムを組んできていたはずではなかったか。何年か前には『靖国』も上映していた。それがなぜ今こうなっているのか。映画祭関係者のなかも揺れているし分断がある。だが、そのことこそでさえ大切なことだ。今日の話し合いがもたれたことは重要なステップだと思う。

マラソン会場問題、「単なるセレモニー」を取材する

10月31日(木) 思ったことがなかなかうまく実現しない。意思決定がどこかブラックボックスに入っている。♫いいことばかりは、ありゃしない。♫ 清志郎の歌を思い出す。

 何だかいらいらしていて、朝、衝動的に近所の映画館に飛び込んでしまった。『ジョーカー』をやっていたからだ。まあ、これは朝からみる映画じゃないわな。大昔の『タクシードライバー』を見終わった時に似た感覚。そのロバート・デ・ニーロも出ていた。かなりの猛毒が含まれている映画だ。「Kill the Rich」の暴動が起きている街を、主人公が車から暴動を眺めて走っているシーンで、クリームの『ホワイト・ルーム』が突然バックに流れた。このセンス! まいった。

 あした以降の動きがつかめず、ゲノム操作食品問題で会いたかった人物との面談もかなわず。

 東京五輪のマラソン会場問題。個人的にはほとんど興味がない。何しろ僕は東京五輪返上派なので。ニュースのキャスターなんぞ「サル回しのサル」だと思っている人がテレビ局にはたくさんいる。僕の場合は、現場取材を最重視しているので、いったん働きだすと「馬車馬のウマ」のように猛烈に働くから、サルとウマのあいだで自爆してしまうことがある。困ったことだ。あんたさあ、いい加減、達観して、安全なスタジオで、当たり障りのないご意見を吹聴する人になれよ、という声には耳を傾ける気はないね。

 というわけで、夕方、晴海のトリトンスクエアで、国際パラリンピック委員会(IPC)会長と森喜朗東京五輪組織委員会会長の協議および記者会見を取材。久しぶりにみた森喜朗氏の顔色からは、かつてのギラギラ感が全く抜けているように感じた。パラリンピックのマラソンや競歩は予定通り東京で開催するとアナウンス。何か協議の前から決まっていたかのように短時間で協議は終了。

 その後のアンドリュー・パーソンズIPC会長と森会長の共同記者会見(ぶら下がり)も幹事社のNHKが仕切り通りにどんどん進んでいくばかり。他の社があまり聞く様子もない。それで挙手して聞いた。

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