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「表現の不自由展」騒動と「風流夢譚」事件

柴田哲雄 愛知学院大学准教授

類似点②

 第二に、右翼団体や右派系市民団体が、抗議対象の混乱と動揺に乗じて、その従来の方針の転換まで迫ったことです。

 「風流夢譚」事件では、右翼団体は、中央公論社の混乱と動揺に乗じて、落とし前として『中央公論』の編集方針の転換を要求しました。『中央公論』は戦前も、戦後に復刊された後も、一貫してリベラルな立場から権力批判を行い、世論に大きな影響を及ぼしてきたことから、岩波書店の「『世界』とともに右翼ジャーナリズムの誹謗にさらされて」きたのです。最終的に嶋中社長は、第三者を介して、右翼団体との間で、『中央公論』の編集方針を「中正にもどす」という約束を交わすに至ります(京谷秀夫)。

 一方、「表現の不自由展」騒動では、「在日特権を許さない市民の会(在特会)」元会長を代表とする政治団体が、主催者の愛知県側の混乱と動揺に乗じて、ヘイトスピーチを伴う集会の開催を黙認させようとしました。周知のように、近年「ヘイトスピーチ解消法」の施行を機に、各地方公共団体は、管理下にある施設において、「在特会」のような団体の集会を制限するという方針を掲げてきたのです。その政治団体は愛知県の管理下の施設で、一連の騒動で「表現の自由」が問われたことを逆手にとるかのような趣旨を掲げて、「在特会」元会長の講演会とともに、「犯罪はいつも朝鮮人」と書かれたカルタの読み札などを展示する「日本人のための芸術祭 あいちトリカエナハーレ2019『表現の自由展』」を企画したのです。そしてヘイトスピーチに反対する市民団体の抗議も空しく、最終的に愛知県側の許可を得るに至ります。

コントラスト①

 俗に「歴史は繰り返す」に続いて、「一度目は悲劇として、二度目は喜劇として」と言うように、悲劇か喜劇かはともかくとして、しばしば歴史はコントラストをなして繰り返すものです。「風流夢譚」事件と「表現の不自由展」騒動との間では、どのような点でコントラストが見られたのでしょうか。

 第一に、表現者側の関係者の「表現の自由」をめぐる対応が挙げられます。

 「風流夢譚」事件では、当時、浅沼稲次郎日本社会党委員長刺殺事件の余燼がくすぶっていたことから、

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筆者

柴田哲雄

柴田哲雄(しばた・てつお) 愛知学院大学准教授

1969年、名古屋市生まれ。中国留学を経て、京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程単位取得退学。2002年以来、愛知学院大学教養部に奉職。博士(人間・環境学)を取得し、コロンビア大学東アジア研究所客員研究員を務める。主著に、汪兆銘政権とヴィシー政府を比較研究した『協力・抵抗・沈黙』(成文堂)。中国の亡命団体に関して初めて本格的に論じた『中国民主化・民族運動の現在』(集広舎)。習仲勲・習近平父子の生い立ちから現在に至るまでの思想形成を追究した『習近平の政治思想形成』(彩流社)。原発事故の被災地にゆかりのある「抵抗者」を発掘した『フクシマ・抵抗者たちの近現代史』(彩流社)。汪兆銘と胡耀邦の伝記を通して、中国の上からの民主化の試みと挫折について論じた『汪兆銘と胡耀邦』(彩流社)。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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