藤田直央(ふじた・なおたか) 朝日新聞編集委員(日本政治、外交、安全保障)
1972年生まれ。京都大学法学部卒。朝日新聞で主に政治部に所属。米ハーバード大学客員研究員、那覇総局員、外交・防衛担当キャップなどを経て2019年から現職。著書に北朝鮮問題での『エスカレーション』(岩波書店)、日独で取材した『ナショナリズムを陶冶する』(朝日新聞出版)
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
「たが」締め直し朝鮮半島の将来像描け 中国巻き込み北東アジア安定を
日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)がかろうじて継続された。米国の働きかけもあって日米韓の「たが」を締め直したように見えるが、むしろ露わになったのは3カ国の首脳めいめいの対北朝鮮外交がもたらした「たが」の緩みだ。いま日米韓がなすべきは不毛なGSOMIA騒動を一刻も早く終え、北東アジアの安定に向けた協調という本来の仕事を進めることに他ならない。
GSOMIAの失効が回避された11月22日夕、防衛省にいた私は徒労感に襲われていた。
日韓関係の悪化により、23日で失効させると通知していた韓国政府が「通知の効力停止」を発表するソウルからのテレビ中継が流れる。だが、要は“延長戦”で、正式に継続するかどうかは、日本の対韓輸出規制をめぐる今後の協議次第という話だった。
今回の騒動は不毛の一言に尽きる。日韓が北朝鮮の核・ミサイル開発加速をふまえてGSOMIAを結んだのは2016年だが、日本にすれば、そうした情報はこれまでも米国経由で入っており、河野太郎防衛相は「GSOMIAの失効が日本の安全保障に直接影響を与えることはない」と語っていた。
では、なぜこんな騒動になるのか。それは、日韓関係の悪化で日米韓の軍事情報トライアングルが崩れると、「北朝鮮をはじめ周辺国に間違ったメッセージを出しかねない」(河野氏)からだ。外務省幹部は「北東アジアで日米韓の連携が揺らいでいないか、中国、ロシア、北朝鮮は常に見ている。GSOMIAはその象徴になってしまった」と語る。
だが、それを文在寅(ムンジェイン)政権の対日政策のせいだと批判するだけでは、何も解決しない。米国が収めようと介入してもGSOMIA騒動がここまで大きくなってしまったことで、悪化するばかりの日韓関係だけでなく日米韓の「たが」の緩みまでが浮き彫りになったのだから、その「たが」を緩ませた要因は何かを見つめなければならない。
私が最大の要因と考えるのは、最近の日米韓の対北朝鮮外交が、朝鮮半島の安定という共通の目標に向かうための協調を欠き、めいめいの首脳主導の下で視野が狭くなったり、ぶれたりしてしまっていることだ。