藤田直央(ふじた・なおたか) 朝日新聞編集委員(日本政治、外交、安全保障)
1972年生まれ。京都大学法学部卒。朝日新聞で主に政治部に所属。米ハーバード大学客員研究員、那覇総局員、外交・防衛担当キャップなどを経て2019年から現職。著書に北朝鮮問題での『エスカレーション』(岩波書店)、日独で取材した『ナショナリズムを陶冶する』(朝日新聞出版)
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
「たが」締め直し朝鮮半島の将来像描け 中国巻き込み北東アジア安定を
米国の例が最もわかりやすい。トランプ大統領が昨年6月に史上初の米朝首脳会談に踏み切ったのはいいが、北朝鮮の非核化をめぐる協議は停滞。一方で、韓国には駐留米軍の経費負担を増やすよう強く迫る。自分が目立てばよく、カネはかけたくないといった風情だ。
韓国は、文大統領が米朝を仲介し、自身も金正恩委員長と会談を重ねるなど積極的に動いた。だが日本に対し戦前の植民地支配による問題を改めて持ち出す姿勢は、文氏が目指す朝鮮半島の将来像への疑念を安倍政権に抱かせ、相互不信の温床となった。
日本も悩ましい。率先して北朝鮮を批判してきた安倍晋三首相だが、米朝対話が動き出すと、自身も拉致問題を何とかしようと金委員長に会談を呼びかけた。そして米朝対話が停滞すると北朝鮮は再び日本海へミサイルを撃ち始め、安倍氏は批判せざるを得なくなっている。
初の米朝首脳会談が開かれた頃は、これを南北に分断された朝鮮半島の非核化・和平から北東アジアの安定へどうつなげるかといった議論が熱を帯びた。かつて「6者協議」に加わった中ロとの関係まで視野に入れた議論が必要だったが、土台となる日米韓の議論は深まるどころか、逆にそれぞれの首脳が国内向けの成果も意識し、めいめいに北朝鮮に接近を図った。
もともと日米韓の連携は、北朝鮮が挑発的な時はまとまるが、北朝鮮が対話へ動くともろい面がある。日米韓のトライアングルの中で直接の同盟関係にない日韓においては、なおさらだ。そこへ各首脳が主導するここ数年の対北朝鮮外交での足並みの乱れが重なって生じた日米韓の「たが」の緩みが、GSOMIA騒動で露呈するに至った。
韓国が今後GSOMIAを正式に継続する条件として、日本に見直しを求めている対韓輸出規制にしても、日本が今年8月、安全保障上信頼できると判断する国のリストから韓国を外したというものだ。米国の介入で失効はぎりぎり、とりあえず回避されたが、日米韓の「たが」を締め直したというにはほど遠い。
今の日韓関係の悪化の背景には、戦争が続いた東アジアの近現代史と、その認識に対する安倍氏、文氏それぞれのこだわりがあり、解決は容易でない。だが、GSOMIA騒動はそれに絡めることなく収束させるべきだ。GSOMIAが安全保障上必要だからというよりも、失効をめぐる騒動が日米韓の「たが」の緩みを国際社会にさらし続けるからだ。
ただ、その収束のさせ方には注意を要する。安倍氏は今回のGSOMIA継続を受け、「北朝鮮への対応のため日米韓の連携は極めて重要だ」と語ったが、最近また米国を挑発し始めた「北朝鮮の脅威」をテコにするようなその場しのぎではいけない。北朝鮮が対話へ動けば日米韓の足並みが乱れるというパターンを繰り返しかねないからだ。北朝鮮に振り回されて焦点がぼやけた朝鮮半島の将来像を、日米韓で結び直すといった形であるべきだ。
それぞれ個性の強い首脳が率いる今の日米韓の政権では厳しいとの見方もあろう。だが、米中も介入した朝鮮戦争の停戦状態が60年以上続き、冷戦後も北朝鮮が核・ミサイル開発を進めてしまった朝鮮半島に平和をもたらすのに、日米韓の連携が欠かせないことは間違いない。そして、この3カ国とも近く「政権移行期」に入り、政治が流動化しかねないことを考えれば、猶予はそうない。