メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

「オープンバンキング」とは何か

日本にはもっと「チャレンジャーバンク」が必要だ

塩原俊彦 高知大学准教授

 「日本の銀行に明日はないだろう」と大学の授業で強調している。とくに、地方銀行の将来は暗い。だが、ここにきて大銀行の将来性にも光が見えない。それは、「オープンバンキング」へのフィンテック企業(後述)の参入を露骨に妨害する姿勢にはっきりと表れている。

「オープンバンキング」への無理解

拡大Impact Photography/Shatterstock.com

 オープンバンキングとはアルゴリズム、データ、ID管理など、デジタル化にとって重要な機能を企業内および外部の組織に提供すること意味している。この欄に筆者が寄稿している最大の理由は、新聞報道の補完をしたいからである。2019年11月26日現在、朝日新聞のメインサイトで「オープンバンキング」を検索してみると、「検索結果はありません」と出てくる。同じ日、日本経済新聞で検索すると、二つの記事がヒットした。読売新聞は0件。毎日新聞では9件がヒットするものの、オープンバンキングそのものを記事したものは見つけられない。

 これほど、日本ではオープンバンキングに対する関心が低い。その結果、既存の銀行の横暴がまかり通ろうとしていると危惧される。

 筆者の最新の論文「ロシアにおけるフィンテックの動向:ズベルバンクを中心にして」が『ロシアNIS調査月報』(ロシアNIS貿易会、2019年11月号)に掲載された。これは、金融サービス分野で利用される最新技術を意味するフィンテック(Fintech)を活用して銀行とフィンテック企業が既存分野をどう変革しようとしているかをロシアについて調査した結果である。

 結論から言えば、日本の銀行はロシアとほぼ同じ低水準にとどまっており、ともに前途は暗い。そもそも、オープンバンキングへの理解が不十分なのだ。ここで、オープンバンキングについて説明してみたい。拙稿をやや長めに引用すると、つぎのようになる。

 「ロシア中銀のロシア銀行は2018年2月に「2018~2020年の期間におけるフィンテック発展の基本方向」を打ち出した。「基本方向」での最大の課題はいわゆる「オープンAPI」であった。このオープンAPIに熱心に取り組んだのは英国である。国家プロジェクトとして「オープンバンキング」で世界をリードすることを宣言し、そのための環境整備に競争・市場庁(Competition and Market Authority: CMA)が従事する体制を2014年の段階で整えようとしたのだ。大変に興味深いのは、政府主導で銀行が嫌がりそうな改革を断行しようとした点である。英国の場合、バークレーズ、HSBC、ロイズ、RBSの4行による寡占状態となっていたため、この大手銀行の同意さえあれば大改革もしやすいという事情があった。加えてこの改革を通じて世界の金融界をリードすることで、ロンドンの金融センターとしての役割を維持したいというねらいがあったと思われる。この結果、英国政府はフィンテック企業のような最先端企業が銀行口座にアクセスできるようにするオープンAPI(銀行がもつ自社顧客データへの接続を第三者に開放することを意味しており、APIはApplication Programing Interfaceの略であり、「アプリケーションの管理するデータなどを他のアプリケーションから呼び出して利用するための接続仕様」のこと:引用者注)が銀行利用者へのサービス向上に有効であると判断した。(中略)

 英国での先行事例を参考にして、EUの決裁サービス指令の改正が2015年に実施された。指令(2015/2366)だ。それまでの2007年指令などを修正した域内支払いサービスについて規定したもので、「第二次決済サービス指令」(Payment Service Directive 2、PSD2)と呼ばれている。これは2016年1月12日に施行され、国内法制化期限は2018年1月13日とされた。PSD2は、顧客の意志に基づいて顧客の口座情報を銀行から取得して集約するサービスである口座情報サービス提供者(Account Information Service Provider, AISP)と、顧客の意志に基づいて銀行に対して決済・資金移動を指示するサービスである決済指示サービス提供者(Payment Initiation Service Provider, PISP)の二つの事業者を定義し、これらの事業者は銀行や電子マネー事業者、決済サービス事業者などに開設された顧客の決済口座にアクセスする場合には、オープンAPIでのアクセスを原則とすることにしている。顧客がAISPおよびPISPに、自身の口座へのアクセスを合意すれば、銀行はそれを拒否でないことにするのがPSD2ということになる。

 このオープンAPIこそ、いわゆる「オープンバンキング」の前提である。ロシアでは、ズベルバンクをはじめとする銀行がフィンテック分野に進出する一方で、フィンテック側から銀行業に進出する動きもある。2019年3月21日、IT企業を傘下にかかえるFIXという持ち株会社の創設者のタタールスタン人、ドミトリー・エレメーエフは資本金3億4000万ルーブルの銀行131を中銀に登録した。店舗やATMをもたずに銀行業に乗り出すロシア初のケースだ。

 日本の場合、2016年5月の銀行法改正で、銀行による出資上限を緩和して金融機関がフィンテック企業に出資しやすい環境が整えられた。さらに、2017年5月の改正によって、銀行に対してAPI公開の努力義務が課された。これは、金融庁がオープンAPIを義務づけようとしたにもかかわらず、努力義務にとどめられてしまったことを意味している。自民党の反対で改革が頓挫してしまったのだ。」

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

塩原俊彦

塩原俊彦(しおばら・としひこ) 高知大学准教授

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士(北海道大学)。元朝日新聞モスクワ特派員。著書に、『ロシアの軍需産業』(岩波書店)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(同)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)、『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)、『ウクライナ2.0』(同)、『官僚の世界史』(同)、『探求・インターネット社会』(丸善)、『ビジネス・エシックス』(講談社)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ社)、『なぜ官僚は腐敗するのか』(潮出版社)、The Anti-Corruption Polices(Maruzen Planet)など多数。

塩原俊彦の記事

もっと見る