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「厚化粧」の日ロ経済協力

なぜJBICの輸出バンクローン枠500億円は使われないままなのか

塩原俊彦 高知大学准教授

安倍外交にもほころび

 憲政史上最長在任の安倍晋三首相だが、森友・加計問題や「桜を見る会」だけでなく外交にもほころびが見える。

 首相は2019年9月にウラジオストクで開催された「東方経済フォーラム」で、日ロのビジネス関係を称賛した。「この3年間、日露の協力が生んだ民間プロジェクトは、合計200件を優に上回ります」というわけだ。しかし、本当だろうか。プロジェクトが構想されても、実現に向けて投資が実際に行われたケースはどれくらいあるのだろうか。安倍首相は実態に目を向けず、真実にふたをして不誠実な発言を平然とのべているだけではないのか。

「東方経済フォーラム」で首脳会談を行った安倍首相とプーチン大統領=2019年9月5日、ロシア・ウラジオストク

 そう感じさせる最大の理由は、ズベルバンクというロシア最大の銀行に対する輸出バンクローン500億円の枠がありながら、それがまったく使用されないまま放置されている点にある。

 日本の国際協力銀行(JBIC)がはじめた同制度は、日本製機器や日本から調達されるサービスを対象にそれらを輸入するロシアの法人に対して、JBICがズベルバンク経由の円建て融資を行う。ズベルバンクが適格と認める法人はロシアだけでなく、その周辺国(ベラルーシ、アゼルバイジャン、ウクライナ、中央アジア5カ国など)にあってもかまわない。要は、この輸出クレジットラインは輸出金融の一形態であり、日本からの設備などの輸出を促進するため、あらかじめ一定金額の融資枠を設けておくものなのである。

 そもそもこの制度は2004年11月、円建て融資を原則としつつ米ドル融資も可能とする輸出バンクローンとして誕生することになった。実施される場合には、JBICと三井住友銀行との協調融資という形をとる。当時の限度枠は7000万ドル。2011年6月になって、同じ規定の融資枠80億円相当を限度とする輸出クレジットラインが新たに設定された。この融資の執行はJBIC、三井住友銀行、みずほコーポレート銀行、三菱東京UFJ銀行との協調融資とされた。

 さらに、2018年5月、JBICは融資枠300億円を限度する円建てのクレジットラインを設定する契約をズベルバンクと結んだ。どうやらこの三つが統合されて、500億円分の枠がJBICに存在するようなのだが、その利用実績はいまだゼロの状態がつづいている。しかも、プロジェクト承認申請期限は2020年9月末に迫っている。

 まさか、1件も利用実績がないまま終了することはあるまいが、このまままったく責任の所在を明らかにしないままにこの制度を終わらせるわけにはゆくまい。そこで、この問題をあえて取り上げた次第である。

輸出バンクローンの欠陥

 きわめて不可思議なのは、なぜ使われもしない制度を創設したのかということだ。いずれの場合にも、JBICはこれ見よがしにズベルバンクとの契約を発表し、いかにも日ロ間での経済協力が進んでいるかのような誤解を与えかねないことを行ったことになる。いわば、安倍首相の対ロ外交がうまくいっているかのような印象操作に加担してきたと言えよう。

 それにしても、利用されるはずもない制度をわざわざつくったとは考えにくい(まあ、その可能性がゼロとは言い切れないが)。おそらく制度が利用されない背景には、制度上の不備があるからだろう。とくに、円建てローンを借りるリスクをズベルバンクが負うことに慎重である結果、ズベルバンクが積極的にこの融資を利用しようとしていないのではないか。ズベルバンクがロシアなどの企業に融資する金利について、JBICは口出しできないという不便さもある。

 実は、JBICはロシア限定の法人向けの輸出バンクローン契約をロシア開発対外経済銀行(VEB)との間でも結んでいる。限度枠は150億円だ。これも融資実績はゼロ。さらに、UniCredit Bankとの輸出グローバルバンクローン、2億4000万ドルも実績ゼロ。こちらの承認申請期日は2020年2月16日であり、実績ゼロのまま制度が終了しかねない。

日ロ経済協力のお粗末な実態

大阪サミットでの夕食会。安倍首相の両隣には、ロシアのプーチン大統領、アメリカのトランプ大統領が座った=2019年6月28日、大阪迎賓館

 もう一つ、ロシア貿易関係者のボヤキを紹介しておこう。世耕弘成経済産業相当時、ロシア経済分野協力担当相でもあった彼は、とにかく実績づくりのために政府に協力するように日本の商社などに要請した。「脅されている」といった印象をもつ商社マンが複数いたのは事実である。その世耕担当相を

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