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「厚化粧」の日ロ経済協力

なぜJBICの輸出バンクローン枠500億円は使われないままなのか

塩原俊彦 高知大学准教授

輸出バンクローンの欠陥

 きわめて不可思議なのは、なぜ使われもしない制度を創設したのかということだ。いずれの場合にも、JBICはこれ見よがしにズベルバンクとの契約を発表し、いかにも日ロ間での経済協力が進んでいるかのような誤解を与えかねないことを行ったことになる。いわば、安倍首相の対ロ外交がうまくいっているかのような印象操作に加担してきたと言えよう。

 それにしても、利用されるはずもない制度をわざわざつくったとは考えにくい(まあ、その可能性がゼロとは言い切れないが)。おそらく制度が利用されない背景には、制度上の不備があるからだろう。とくに、円建てローンを借りるリスクをズベルバンクが負うことに慎重である結果、ズベルバンクが積極的にこの融資を利用しようとしていないのではないか。ズベルバンクがロシアなどの企業に融資する金利について、JBICは口出しできないという不便さもある。

 実は、JBICはロシア限定の法人向けの輸出バンクローン契約をロシア開発対外経済銀行(VEB)との間でも結んでいる。限度枠は150億円だ。これも融資実績はゼロ。さらに、UniCredit Bankとの輸出グローバルバンクローン、2億4000万ドルも実績ゼロ。こちらの承認申請期日は2020年2月16日であり、実績ゼロのまま制度が終了しかねない。

日ロ経済協力のお粗末な実態

拡大大阪サミットでの夕食会。安倍首相の両隣には、ロシアのプーチン大統領、アメリカのトランプ大統領が座った=2019年6月28日、大阪迎賓館

 もう一つ、ロシア貿易関係者のボヤキを紹介しておこう。世耕弘成経済産業相当時、ロシア経済分野協力担当相でもあった彼は、とにかく実績づくりのために政府に協力するように日本の商社などに要請した。「脅されている」といった印象をもつ商社マンが複数いたのは事実である。その世耕担当相を

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筆者

塩原俊彦

塩原俊彦(しおばら・としひこ) 高知大学准教授

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士(北海道大学)。元朝日新聞モスクワ特派員。著書に、『ロシアの軍需産業』(岩波書店)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(同)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)、『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)、『ウクライナ2.0』(同)、『官僚の世界史』(同)、『探求・インターネット社会』(丸善)、『ビジネス・エシックス』(講談社)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ社)、『なぜ官僚は腐敗するのか』(潮出版社)、The Anti-Corruption Polices(Maruzen Planet)など多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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