民主派の要求を阻止するのは至難の業。日本の国会も明確な意思表示を
2019年11月29日
世界の注目を集めた香港の区議会選挙(11月24日)は、民主派が全452議席の8割以上の385議席を獲得する、歴史的な勝利をおさめた。この結果を、国際社会の大方は双手(もろて)を挙げて歓迎している。
香港の区議会は、日本の区議会を思い起こせばよい。実際のところ、身近な仕事が本務で、香港の重要政策や重要法案の決定に参画するものではない。
ただ、香港のトップである行政長官や立法会議員が反民主的な方法で選出されるのに対し、1人1票の直接選挙で選ばれる。しかも、いわゆる小選挙区制である。それゆえ、学生や青年層を中核とする民主派は、この選挙を、民主派が掲げる香港の争点を問う「住民投票」と位置づけてきた。
民主派の主張は、「五大要求」として打ち出され、香港にとどまらず世界中に知れ渡ることになった。結果的にこの要求は、圧倒的な支持を得られたかたちだ。
五大要求
(1)「逃亡犯条例」改正案の完全撤廃(2)警察と政府の市民活動を「暴動」とする見解の撤廃(3)デモ参加者の逮捕・起訴の中止(4)警察の暴力的制圧の責任追及と外部調査実施(5)民主的選挙の実施
「平和的に選挙を実施できたことを大変うれしく思います」
林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官が選挙の当日、投票所で笑みを浮かべて、次のように語っていたのは、何よりの証左だ。
北京政府の認識も同じようなものだっただろう。選挙結果を受けてコメントを求められた王毅外相の慌てぶりは、それを物語っている。だから中国のメディアは、選挙結果の速報を具体的な数字をあげて伝えるのをためらったという。
民主派は、5年前の失敗の主たる理由を「武闘派」と「穏健派」の内部分裂にあると総括し、今回の抗議デモでは分裂を回避することに努めた。
一方、北京や香港政府は、デモが長引けば、いずれ一般市民の間に批判的な空気が強まり、武闘派はさらに暴力的になって、一般学生などは参加しなくなる、と読んでいたのであろう。ところが、デモは続き、内部分裂も起こらなかった。
区議選についても、デモはともかく、たかが区議選がそれほど盛り上がることはない。区議選が終われば、香港は次第に静かになるだろう、と踏んでいたのではないか。
しかし、「雨傘」のときとは異なり今回、学生や青年層の決意は、そんな中途半端なものではなかった。
11月11日に警官に銃撃された学生(21)は記者会見を開き、こう語っている。
「民主とか自由とかいうのは、根本的で基本的なもの」であって、「私たちは命と交換ではなく、自然に政府が私たちに与えるべき権利」だと。
彼は警官に特別に狙われて撃たれたわけではない。たまたま、標的になってしまっただけのことだ。そんなごく普通の学生が、このような考えと覚悟を持って参加している。そして、彼らは香港ばかりではなく、中国を自由で民主的な国に転換していく原動力だ。それが、北京や香港政府には見えていなかったのだ。
黙々と投票の順番を待つ市民の姿からは、なんとしても自由な香港を護ろうとする不退転の決意が漂ってきた。
長年、選挙を戦ってきた私は、同じ一票でも、「強い支持」の一票と「弱い支持」の一票があることを知っている。政治を根底から動かす契機になるのは、「強い支持」の一票である。
今回、香港の民主派が投じた一票には、格別に深い支持の思いが込められているに違いない。民主派の1票は親中派の1票の何倍もの政治的勢いがある。それだけに、香港政府・北京政府が民主派の要求を阻止するのは至難の業であろう。仮に、中国が経済力や軍事力で民主派を封じ込めようとすれば、間違いなく世界の孤児になり果てる。
11月19日、香港情勢を憂える米国上院は、全会一致で「香港人権・民主主義法案」を可決。10月にすでに可決している下院と足並みを揃(そろ)えた。
この法案は、“一国二制度”を前提に香港と中国とを区別し、関税や査証に関する優遇措置を毎年、見直すことを政府に義務づけている。11月27日、トランプ米大統領が同法案に署名、成立をした。
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