民主派が親中派を圧倒した区議選の後も続く香港デモ。出口が見えない民主化運動
2019年12月05日
バス停の位置やごみ回収の回数など暮らしに身近な問題を扱ってきた香港区議会の選挙は今回、民主化をめぐる「住民投票」の様相となり、民主派が親中派を圧倒し地滑り的な勝利を収めた。
選挙から3日後の11月27日には、トランプ米大統領は香港の人権と自治を擁護するための「香港人権・民主主義法案」に署名し、「内政干渉」として中国側が猛反対していた同法は成立した。これは、香港特別行政区政府やその後ろ盾である中国への抗議を続けている民主派への支援になるが、中国側に譲歩の兆しは見られない。むしろ、より強張り、居丈高になっている。
独裁を続けたい中国共産党にとって、リーダーを民主的な投票で選ぶことは、体制転覆につながりかねないので禁物だ。だからこそ、1997年の香港返還に際しても、香港政府トップの行政長官は間接選挙を経て北京の中央政府が任命する仕組みをつくった。国会にあたる立法会も、直接投票で選ばれるのは議員の一部にすぎない。
これに対し区議会は、予算の承認や条例の制定といった本来の議会に必要な権限はなく、影響力は小さいため、議員を直接投票で選ぶやり方が残った。
議員は住民にとって役に立つかどうかという“基準”で選ばれる傾向があり、高邁(こうまい)なスローガンが叫ばれることのない「どぶ板選挙」が続いていた。
それが一変したのが、2003年の選挙だった。
董建華行政長官(当時)が国家分裂の動きを禁じる「国家安全条例」の制定を目指したことに、住民が反発して大規模なデモが起き、その勢いに乗って民主派が躍進した。区議会選挙は条例制定とは関係ないが、直接選挙によって「民意」が明確が示されたのである。
前回20015年の区議選では、民主化デモ「雨傘運動」に参加し「傘兵」と呼ばれた若い候補が当選するなど、政治色が濃くなった。とはいえ、当時の朝日新聞の扱いは「香港で地方選/民主派議席増」との見出しで、ベタ記事の扱いだった。
それから4年後の今年、香港区議選が新聞の一面に取り上げられるようになるとは、私も想像だにしなかった。
政治は本当に生き物だ。
民主派大勝を受け、支持者のなかには、シャンペンをあけて盛大に祝った人もいた。だが、喜んでばかりはいられない。
来年の立法会選挙は、区議会とは制度が違うので、民主派の今の勢いがそのまま反映されるわけではない。そして民主派の新しい区議には、「素人」が少なくない。住民ときめ細かく接触し、要望を聞き、意見を吸い上げ、当局に働きかけるという地道な仕事に耐えられるかどうか。
だが、区議会議員として成功すれば、小さな選挙区は民主活動の鋼のように強い拠点になり得る。民主派にとって踏ん張りどころだ。
親中派はどうか。
中国メディアや中国共産党宣伝部の指導を受ける一部香港メディアは、民主派勝利を正直に伝えず、「選挙は公平でなかった」「妨害があった」などと報じた。しかし、香港の親中派は大人である。言論統制で真実が伝わらないことがある中国大陸とは違い、香港で選挙結果を知らない人はまずいない。
自由な社会でウソはつき通せない。「惨敗を率直に認め、深く反省する」などの声が、親中派政治家からは相次いでいる。
香港で民主派は「汎民主派」と呼ばれる。主義主張に違いがあることを踏まえたものだ。
親中派は現体制を支持する「建制派」だ。英植民地時代から中華人民共和国を支持してきた労働界など左派の流れを受け継ぐ人たちもいれば、中国と西側諸国との間でバランスをとって活動してきた経済人もおり、民主派同様一枚岩ではない。たとえば、労働者の福祉政策については、これを支持する労働界とコストの増大を懸念する経済界は対立しがちだ。
さらに、親中派といってもゴリゴリの「共産主義者」ばかりではない。欧米留学経験者が少なくなく、着飾った姿をしゃれたレストランやホテルのパーティーでよく見かける。香港返還前の特派員時代の私に、香港情勢をつぶさに教えてくれた民主建港協進連盟初代主席の曽鈺成氏も、スマートな知識人だ。
曽氏は香港大学で数学を学び、米国留学を考えたこともある。教育者として長く活動した。英語と中国大陸の「普通話」を自在に操り、東西の古典にも詳しい。穏やかな人柄で、民主派との関係も悪くない。
そんな曽氏は、民主化運動のなかで、「民主と自由が永遠に朽ちないと願う」と歌われる「願栄光帰香港(香港に再び栄光あれ)」を「レベルが高い」と評価し、話題となった。
親中派は、明らかに不利な状況の区議選において、4割の票を得た。その「底力」と民主派はどう向き合うのか。これからも正面から対決していくのか、それとも香港民主化のため手を携える道を探るのか。
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