高橋 浩祐(たかはし・こうすけ) 国際ジャーナリスト
英国の軍事専門誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」東京特派員。1993年3月慶応大学経済学部卒、2003年12月米国コロンビア大学大学院でジャーナリズム、国際関係公共政策の修士号取得。ハフィントンポスト日本版編集長や日経CNBCコメンテーターを歴任。朝日新聞社、ブルームバーグ・ニューズ、 ウォール・ストリート・ジャーナル日本版、ロイター通信で記者や編集者を務める。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
「自由」か「平和」か。香港デモをめぐって相互に不信を募らせる香港市民と深圳市民
同大に入り、取材を始めると、私と違い、香港警察に正式に登録して許可を受けた現地メディアも取材をしていた。彼らと一緒になった私は、近くにいたメディア担当の若い女性警察官に今、一番聞きたいことをずばり聞いてみた。
「学生のデモ隊も、ここにいる警察官も、同じ香港の若者たちだ。両者が激しく衝突しているのを日本から見ていて、私は心がとても痛む」と英語で語りかけた。
女性警察官の答えが印象的だった。
「あなたはそのように言えるかもしれない。しかし、香港警察としては、法を犯しているかどうかがすべてだ。法を犯していれば、私たちは取り締まるのみだ」
確かに、それは警察の基本姿勢としては理解できる。だが、警察側にもデモ隊へのオーバーリアクション(過剰反応)はなかったか。
移動には、貸し切りのタクシー2台を使ったが、一人目の28歳の香港人男性ドライバーは、「香港警察は敵だ」「彼らは野獣だ」などと終始、警察に対しての憤りを私にぶつけていた。
理由を尋ねると、自宅や勤務地付近を徒歩で通行中、警察が催涙ガスを放ち、自らも被害を受けたことからだという。
「警察は一般市民を攻撃すべきではない」としきりに力説していた。
香港で24日に行われ、投票率が過去最高の71%に達した区議会選挙に投票に行ったかどうかを尋ねると、このドライバーは仕事がとても忙しく、投票に行けなかったと述べた。政治への不満が強くあるものの、仕事優先で投票に行きたくとも行けなかった無念さを隠しきれずにいた。
二人目のタクシードライバーは33歳の香港人男性。彼も「デモを支持する」と明確に述べていた。
「中国には自由がないが、香港には自由がある」「香港人は中国が嫌いだ。なぜなら、中国には自由がないからだ」などと、中国本土への批判を繰り返していた。
ドライバーは二人とも、香港が中国と違う点を多数強調し、距離を置こうとしていた。とりわけ一人目のドライバーは、「中国本土の女性とは絶対に結婚しない。結婚時に持ち家を条件にするなど、価値観が合わない」とも語っていた。取材を通じ、香港市民の中国人への厳しい視線をひしひしと感じた。