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在日朝鮮人「帰国事業」60年後の真実(下)

国際政治の論理で実現した「大規模移住」。在日朝鮮人自身の人権問題は軽視された

市川速水 朝日新聞編集委員

帰国事業を支持した朝日社説

 帰国事業が1959年12月に実現するまでの当時の朝日新聞を見ると、保守・革新超党派の政治家や文化人が帰国運動に協力する動きを大きく取り上げ、再三、社説ででも帰国を推進する論調を繰り返している。

 われわれは、北鮮への帰国を望む人たちに対しては、その切なる希望をかなえるのが当然の措置であると考えて来た。(中略)ここにわれわれが要望したいのは、人権宣言や赤十字国際会議の決議にそったこの日本の措置を、国際世論が正当に評価することである。(1959年2月2日付)
 在日朝鮮人が、自分の好むところへ帰るということは、すでに述べた通り、基本的人権にもとづいて自由に居住地を選択するという、何人にも与えられた権利であって、政治的理由によって、これを阻止することは許されない。北鮮帰還問題は、かつての日本人のソ連、中共からの引き揚げ問題と本質的には同様の事柄といわなければならない。(同年2月14日付)

 日朝赤十字が帰国事業実現へ向けて正式に調印したのを受けて、朝日社説は「喜びにたえない」と積極的に評価し、反対を続ける韓国にクギを刺した。

 韓国支持の団体が日本国内で帰還反対運動を企てる動きがあるといわれるのは、はなはだ遺憾なことと言わねばならない。故国に帰りたいという個人の意思を政治的な理由で阻止することは許されない。ましてや、再開された日韓会談で、韓国側が北朝鮮帰還問題を取り上げようとする意図がかりにもあるとするならば、人道問題と政治とを、混同することのはなはだしいものというほかはない。(同年8月14日付)

 朝日だけでなく、ほかの大手紙も大同小異の論調を繰り広げた。共通するのは、日韓正常化を速やかにまとめたい。その障害になりかねない帰国事業は人道問題なので韓国にも国際社会にも理解して欲しい。その落としどころとして「人道」「人権」を大義名分に掲げた形だ。

 そこには「北朝鮮に行った後、日本より素晴らしい生活が待っているのかどうか」という視点と想像力が欠けていた。

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筆者

市川速水

市川速水(いちかわ・はやみ) 朝日新聞編集委員

1960年生まれ。一橋大学法学部卒。東京社会部、香港返還(1997年)時の香港特派員。ソウル支局長時代は北朝鮮の核疑惑をめぐる6者協議を取材。中国総局長(北京)時代には習近平国家主席(当時副主席)と会見。2016年9月から現職。著書に「皇室報道」、対談集「朝日vs.産経 ソウル発」(いずれも朝日新聞社)など。

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