牧原出(まきはら・いづる) 東京大学先端科学技術研究センター教授(政治学・行政学)
1967年生まれ。東京大学法学部卒。博士(学術)。東京大学法学部助手、東北大学法学部教授、同大学院法学研究科教授を経て2013年4月から現職。主な著書に『内閣政治と「大蔵省支配」』(中央公論新社)、『権力移行』(NHK出版)など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
首相の親衛隊チームと一般行政官僚チームとの間で高まる緊張関係
さらに深刻なのは、民間英語試験導入に見られる「身の丈」発言である。
民間英語試験を受験する際の受験料負担は決して小さくはない。また、受験会場が都市部に集中している点で、地方在住の高校生にとってきわめて不利である。それを「身の丈」と決めつける安倍首相の最側近の発言からは、この長期政権が全国規模の不公平をそのまま放置してもかまわないとみなす姿勢がみてとれる。
春うららの桜の下で、いかにも得意げな首相夫妻のテレビ映像が繰り返された「桜を見る会」は、こうした不公平感をとりわけ強く印象づけた。そこから浮かぶのは、親しい支援者に利益供与をするばかりで、国民への広い眼差しなどない政権の性格である。
国会を閉じてしまえば、野党の追求の場がなくなるし、首相には外交日程がある。そうこうするうちに年が明け、国民は臨時国会の小さな不祥事など忘れてしまうだろう。そんな政権の思惑が透けてみえるが、これら一連の出来事から生じた不公平感は決して消えない。だが、これを改める何らかの目にみえる対応策は示されてはない。政権は、新しい策を打ち出すことなく、ただただ時間を稼いでいるようにさえ見える。
いまや問題は、首相自身の資質であり、取り巻きの側近の問題である。年が改まったからといって、野党に政権担当能力がないので、政権と与党の支持率が高止まりしたまま続くとは限らない。それどころか、今後もこうした不公平感を実感させる案件が、折に触れて浮上しそうな気配が濃厚である。おそらく、不公平感は政権が終わるまで強まれこそすれ、弱まりはしないだろう。
政権の終わりが見えなかったこれまでは、安倍官邸が何か新しい施策を打ち出し、局面を打開する努力を見せるのではないかという期待があった。首相に対する高い支持率は、そうした未来に対する有権者の期待であった。
だが、2年後の首相の総裁任期終了に向けて、いよいよ終幕に向かっているとしか見えない政権からは、再起不能の容態があらわになりつつある。政権は明らかに終末期にさしかかっている。それを如実に示すのが、あれほど強固な一体性を誇っていた「政権チーム」の分裂と対立である。
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