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ローマ教皇に救われた話。命の重さ

[165]萩生田文科大臣の記者会見、故・木内みどりさん宅、ローマ教皇ミサ……

金平茂紀 TBS報道局記者、キャスター、ディレクター

11月19日(火) 午前中「報道特集」の定例会議。木内みどりさんが逝ったことがなかなか心から離れない。きのうの毎日新聞のコラム「風知草」いわく<これを小事と侮れば政権は信頼を失うが、「桜を見る会」の運営が天下の大事だとは思わない。大嘗祭もつつがなく終わり、令和へと転換が進む。世界激動の今日、国際的な課題を顧みず、観桜会が「最大の焦点」になるような国会のあり方自体、改める時ではないか>。そうですか? 観桜会の腐敗への素朴な怒りこそが、香港の抵抗運動にも、韓国のキャンドル革命にも、チリやボリビアやコロンビアでの民衆デモにもつながる真っ当な動きではないのですか。

 雑誌『社会運動』誌のインタビュー記事の校正作業。

11月20日(水) 心身のバランスをとるため早起きしてプールへ行き泳ぐ。泳がずにはいられない。安倍晋三首相在任が2887日となって桂太郎を抜いて憲政史上最長となった。

 午後、渋谷でドキュメンタリー映画『プリズン・サークル』をみる。坂上香さんの作品だ。坂上さんの作品は『ジャーニー・オブ・ホープ~死刑囚の家族と被害者遺族の2週間~』の頃から注目してみてきている。刑罰や矯正、更生、償いという大テーマが底流にある作品が多い。僕の同僚も刑務所内にカメラを入れて別の角度から長期取材を続けている。坂上さんはインディペンデントだから、日本でそれを行う場合、非常にきびしい障壁がある。それを敢えてやった。

映画『プリズン・サークル』映画『プリズン・サークル』=公式サイトより

 坂上さんの場合の特徴は、 TC (セラピューティック・コミュニティ=映画では回復共同体という訳語があてられている)の受刑者を集中的に長期にわたって撮影していることだ。受刑者同士が言葉を獲得して自分を語ることによって、変わっていくさまを見事にとらえている。というよりは共に体験しているというか。試写が終わると期せずして会場から拍手が沸いた。珍しいことだ。その拍手の意味を考えた。もちろん坂上さんに向けられた拍手であるが、同時に登場人物たちに送られた声援の意味の、共感の意味の拍手でもあると思った。会場で何人かの知人と会った。そのうちの一人、岩波書店のOさんと一緒にラーメンを食べた。

 局に戻って身辺整理。関係者より、木内みどりさんの件、明日の14時にプレスに一斉リリースするという。準備が大変そうだ。それはそうだろう。

11月21日(木) 今日も朝早起きしてプールへと向かう。いつもの半分くらい泳いでサウナに入る。サウナに入ったら、BGMにサティのジムノペディが流れていた。何だか聴き入ってしまった。今の心の状態としっくりいく。

 13時30分に社会部のYデスクに木内さんの件を告げる。14時に告知があるようだとも伝える。N君がCS出演時のテープを探し出してくれた。それもあわせて手渡す。14時に、木内さんのやっていた「小さなラジオ」のホームページに告知があった。そこに貼られていた写真が、ニコニコ顔の全身写真で「またね!」という書き込みが添えられていた。まいったなあ。TBSは何とニュース速報を流していた。まあ、あの世で木内さんも笑っているだろう。夕方のニュースでもやっていた。NHKや他局のもみていたら、テレ朝が手厚くやっていた。木内さんが逝ったという実感がニュースをみてなおのこと強まった。

木内みどりさんの覚悟が伝わってくる、優しい「遺書」

11月22日(金) 朝9時半からの萩生田文科大臣の記者会見に出るため家を早く出る。Nディレクターがかなり前に記者会見室に行って場所とりをしてくれたので、前の方の記者席に座って質問することができた。本当に頭が下がる。大学入学共通テストでの記述式問題導入に教育現場では反対論が根強くある。記述式の答えの採点の仕方に主観や偏りが入り込むのは避けられない。

 だいたい、20万人が記述式で答えを書いたら、20万通りの答えがあるのが当然であって、それをどう採点するというのか。だが萩生田文科相は「予定通りやらせていただきたい」などと言っていた。英語民間試験の導入がポシャった上に、記述式も延期されたら、共通テストの根幹が揺らぐことになるとでも思っているのか。記述式導入の推進論者は下村元文科大臣と元慶応塾長のA氏だったらしい。生臭い。夕刻、T。

萩生田光一文部科学相萩生田光一文部科学相。大学入学共通テストをめぐって混乱が続く

11月23日(土) 「報道特集」のオンエア。前半は大学入学共通テストをめぐって。後半が日下部キャスターの香港情勢リポート。香港からの最新状況をまじえてのリポートはとても見ごたえがあった。とりわけ香港理工大学の内部がどうなっていたのか、理工大学籠城学生らへのバケツリレー式の支援物資の運び込み、その外部(センターといわれるオフィス街の中心地や繁華街)での一般市民の「抵抗」支持の目まぐるしくも熱い動き、ここまできちんと取材した日本の取材チームはいないのではないか。歴史の瞬間に立ち会うと、例外的にこのような突出した優れた現場取材が生まれることがある。キャスターはもちろん、コーディネーターやカメラマン、VE、ディレクターたちも、宝物のような経験をしたと思う。

 オンエア終了後、亡くなった木内みどりさんのご自宅に向かう。

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