長野ヒデ子(ながの・ひでこ) 絵本作家
1941年愛媛県生まれ。 絵本作家。紙芝居、イラストレーションなどの創作、エッセイや翻訳も手掛ける。代表作に「とうさんかあさん」(石風社)、「おかあさんがおかあさんになった日」「せとうちたいこさんデパートいきタイ」(童心社)、など。紙芝居文化推進協議会会長。日本絵本賞、産経児童出版文化賞、久留島武彦文化賞受賞。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
憲法九条を胸に井戸を掘り、宮沢賢治を愛した友を悼む
中村さんの魅力とは――。
何度も講演会に行きましたが、「ああ、すごい人だなあ」と感じることがよくありました。
それは、会場から、中村さんとは異なる意見が出た時です。
そういう時、中村さんは相手の意見を否定したり、間違いを指摘したりしません。中には激しい調子で批判する人もいますが、決して強く反論はしないのです。
「あなたの言うことも、もっともです。この質問をしてくれてよかった」と、まず、相手の考えを全面的に受け入れる。そして、静かに、穏やかに、言葉を選びながら相手に納得してもらえるよう、語りかける。そうやって相手を説得してゆく。なかなか、できることではありません。
ある講演会では「アフガニスタンでは、イスラム教の女性はブルカという布で全身を覆っている。女性の人権を無視した行為だ。そういう社会を支援することには疑問がある」という批判の声があがりました。
中村さんは、こんなふうに応じました。
「確かに、女性の人権について考えなければいけないことはたくさんあります。ただ、日本でも、外からは夫が主導権を持っているように見えても、実際に力を持って動かしているのは妻だという家庭はたくさんありますよね」と笑いを誘いながら、「自分たちとは違う社会のあり方を理解しながら、実情を見ることも大事ではないでしょうか」と考えることを促しました。
こんな場面も印象に残っています。
遠くに銃撃の音が聞こえる場所で、子供たちがわらべうたを歌いながら遊んでいる様子を話してくれたことです。現地の日常の風景。過酷な状況ではあるけれど、その中にほのぼのとした時間があり、ごく普通の生活がある。大きな事業をしながら、そうしたささやかなくらしのひとこまにも目を向け、日本にいる私たちに伝えてくれた。
それは大きなメッセージだったと思います。
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