支援に軍隊はいらない。金さえあればの迷信から私は自由
アフガニスタンで亡くなったNGO「ペシャワール会」の現地代表で医師の中村哲さん(73)の言葉を改めて読み直す2回目。アメリカ支持一辺倒の外交や憲法を軽視することの危うさを指摘する声は、現代の日本に重く響く。(いずれも朝日新聞記事より抜粋、日付は紙面掲載日)
2003年11月22日
オピニオン面「私の視点」への寄稿
私たちPMS(ペシャワール会医療サービス)が用水路を建設中だった今月2日、発破作業を攻撃と誤認した米軍ヘリコプター2機が機銃掃射した。作業地の平和は一瞬にして吹き飛ばされた。当地の治安状況は私が滞在した20年間で最悪になっている。
いま、ほとんどが農民であるアフガンの人々が切実に欲するのは、食糧と平和な村々の回復である。この4年、東部アフガンは未曽有(みぞう)の干ばつで耕地が砂漠化し、大量の難民が発生している。彼らが大都市に流れ、治安悪化の背景をなしていることは意外に知られていない。
こうした事態に対応するため、私たちは井戸掘りに努め、これまでに1000本の井戸を造った。さらに、用水路も建設中だ。これは十数万人の帰農を促し、少なからず地域の復興と安定に寄与するはずだった。にもかかわらず、このところ現地では米軍のアルカイダ掃討作戦による誤爆が頻繁に起こり、住民の米軍への敵意が日増しに高まっている。
イラクと同様、アフガンでも、米軍に対してだけではなく、国連組織や国際赤十字、外国のNGOへの襲撃事件が頻発している。地元民から襲撃を受け、すでに撤退した国際団体もある。
「人道支援に赴いたのになぜ」といぶかる日本国民も多いと思う。
現地が反発するのは、復興援助が軍事介入とセットになっているうえ、外国側のニーズ中心で民意とかけ離れたものになっているからだ。「タリバーン政権は問題もあったが、アメリカの介入はもっと嫌だ」というのがアフガン民衆の本音だろう。
結局、暴力による干渉はろくな結果を生まなかった。人々が生きるための支援なら軍隊は必要ない。
今回、私たちは「テロリスト」からではなく、「国際社会の正義」から襲撃された。日本政府がこの「正義」に同調し、「軍隊」を派遣するとなれば、アフガンでも日本への敵意が生まれ、私たちが攻撃の対象になりかねない。すでに私たちは車両から日章旗と「JAPAN」の文字を消し、政府とは無関係だと明言して活動せざるを得ない状況に至っている。
平和には軍事力以上の力がある。国是である平和主義を非現実的だと軽んじ、米国の軍事力行使だけでなく、自衛隊の派遣すらも是認しようとする日本の風潮は危険かつ奇怪である。