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憲法9条が信頼の源、中村哲さんの言葉③

アフガンで井戸を掘り、用水路を造り、砂漠を緑にした医師の声

「論座」編集部

無政府状態のアフガンから

中村哲拡大用水路工事の指揮をとる中村哲さん=2008年、アフガニスタン、ペシャワール会提供

2008年11月9日
 オピニオン面「耕論」でアフガン復興への道を語って

 日本で、アフガニスタンにおける「対テロ戦争」支援のための給油の延長が議論されている。そのアフガンは事実上の無政府状態だ。日本人を少しずつ帰していた矢先に、わが会のワーカー伊藤和也君の殺害事件が起きた。言葉がない。人は身近な所でしか、他者の死を感ずることができない。だが、人の死を政治的に利用することは許されることではない。「尊い犠牲がでたが、だからこそテロとの戦いに積極的に関与することは重要」と政府要人が発言するのを聞けば、私の心中は穏やかではない。

 「テロとの戦い」は8年目になったが、アフガンでは米軍や国際治安支援部隊(ISAF)の活動が、暴力の連鎖を生んでいる。「誤爆」で子供や女性を殺され、親兄弟が報復社会の中で戦闘要員になっていく。1人の外国兵の死亡の背後には、100倍のアフガン人の犠牲があることへの想像力が欠けている。

 干ばつによる数百万人が直面する飢餓とともに、反政府勢力の拡大と治安悪化の悪循環を作る。過ちを改むるに憚(はばか)ることなかれという。いま外国軍がやっている「対テロ戦争」は過ちを飾るものだ。日本のインド洋での給油活動がその「悪循環」に加担していることを忘れてはならない。

 タリバーン運動は、確かにアルカイダなどの外国勢とのかかわりはあるが、基本的にアフガンの伝統文化に根ざした保守的な国粋運動の色彩が強い。無頼漢もいるが、旧タリバーン政権の指令一つで全部動いているわけではない。

 「武装勢力」といっても、アフガン農村は兵農未分化の社会だ。パキスタンとアフガンの国境地帯(部族自治区)はアフガン人と同じパシュトゥン民族だから武装勢力がパキスタン側に逃げ込む。あの出撃拠点をつぶさなければという理屈で、米軍が主権を無視して無神経に攻撃する。ここでも報復の連鎖が始まりパキスタンでも戦火が広がろうとしている。

 昨年、インド洋での給油延長問題が報道されたことで、現地では「えっ、日本はそんなことをしていたのか」と驚かれた。親日感情は消えていないが、外国人を打ち払う「攘夷(じょうい)主義」が確実に日本を標的とする日が来る。だが、まだ間に合う。軍事協力を一切しないという宣言だけで、日本への好感は回復するだろう。

 アフガニスタンは、干ばつ前には穀物自給率が9割を超えた農業国家だ。農民たちが生存できるような条件を備えることこそ、治安安定への近道でありテロ対策である。期待されるのは、干ばつ対策で灌漑用水路の整備や治水工事である。農民は、水さえあれば決して貧しくはない。

 いま求められる視点は、米国の顔色をうかがうことや日本国内での受けの良さでなく、アフガンの地で生きる人々にとって、何が大事かを見極める努力だ。焦ることはない。軍事によらない息長い支援の姿勢を、明確に打ち出すことがなにより大切だ。

中村哲拡大アフガニスタン・カブールの国内避難民キャンプ=2009年11月

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