無定見、無責任な企業による利用には規制が必要だ
2019年12月19日
ノーベル経済学賞を受けたダニエル・カーネマンは、その著書『ファスト&スロー』の第21章「直感対アルゴリズム:専門家の判断は統計より劣る」のなかで、事実として、予測判断において専門家が計算式のような手順を定式化したもの(アルゴリズム)に負けてしまうと論じている。
このアルゴリズムにしたがって人間の判断に挑戦しているのが人工知能(AI)だから、「専門家の判断はAIよりも劣る」という命題が成立するとも言える。彼はその章でつぎのようにのべている。
「以上の研究から、驚くべき結論が導かれる。すなわち、予測精度を最大限に高めるには、最終決定を計算式にまかせるほうがよい、ということだ。とりわけ、予測可能性が低い環境についてそう言える。たとえばメディカルスクールの入学試験では、教授陣が受験生と面接した後に合議により最終合格者を決める方式が多い。まだ断片的なデータしか集まっていないが、次のことは確実に言える。面接を実施して面接担当者が最終決定を下すやり方は、選抜の精度を下げる可能性が高いということである。というのも面接担当者は自分の直感に過剰な自信を持ち、印象を過大に重視してその他の情報を不当に軽視し、その結果として予測の妥当性を押し下げるからだ。」
この指摘を採用面接に当てはめると、会社の人事担当者という専門家が採用の可否を判断するよりも、AIに判断させたほうが会社の必要とする人材を獲得できる可能性が高いことになる。ゆえに、世界中でリクルートにおいてAIを利用する動きが広がっている。
日本の場合、多数の入社希望者がいる大企業で、いわゆる「エントリーシート」(ES)という応募書類のなかから人数を絞るためにAIを導入するところが増えている。これは、あくまで面接試験に臨む人数を絞り込むための作業であり、過去のESの内容とそれを書いた学生が書類選考を通過したかの情報を結びつけて判断基準を設けて点数化し、それをAIに覚え込ませ、これまでの人手をかけた膨大な作業を省こうというものだ。
その妥当性をめぐってはさまざまな意見があるだろう。ただ、この例は面接そのものにAIを利用するという、カーネマンの話とはまったく別の話だ。
ワシントンポスト紙(2019年10月22日付電子版)に「顔をスキャンするアルゴリズムがますますあなたが仕事に値するかを判断する」という記事が掲載された。
他方で、日本では、就活情報サイト「リクナビ」を運営するリクルートキャリアが、就活生の内定辞退率を同意なしに予測して企業に売っていた問題が表面化し、同社は政府の個人情報保護委員会から改善勧告を受け、謝罪に追い込まれる事件が起きた。だが、本当は朝日新聞電子版が報道したように、顧客である採用企業とリクナビが「共謀」していた可能性が高い。
少なくとも2019年2月以前には、採用企業がインターンシップを餌に「クッキー」(ユーザーの識別・属性を記録)を利用して個別学生ごとの情報データをリクルート側に提供し、それをもとにリクナビが内定辞退率をはじき出していたからだ。このため、個人情報保護委員会は12月4日、「内定辞退率」を購入していた37社にも行政指導を出した。このなかには、トヨタ自動車、デンソー、三菱商事、三菱電機などが含まれている。
こんな企業は「まったく信用
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