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AI活用の動画面接にはどんな問題点があるのか

無定見、無責任な企業による利用には規制が必要だ

塩原俊彦 高知大学准教授

世界中で広がる採用選考へのAI利用

 ノーベル経済学賞を受けたダニエル・カーネマンは、その著書『ファスト&スロー』の第21章「直感対アルゴリズム:専門家の判断は統計より劣る」のなかで、事実として、予測判断において専門家が計算式のような手順を定式化したもの(アルゴリズム)に負けてしまうと論じている。

 このアルゴリズムにしたがって人間の判断に挑戦しているのが人工知能(AI)だから、「専門家の判断はAIよりも劣る」という命題が成立するとも言える。彼はその章でつぎのようにのべている。

 「以上の研究から、驚くべき結論が導かれる。すなわち、予測精度を最大限に高めるには、最終決定を計算式にまかせるほうがよい、ということだ。とりわけ、予測可能性が低い環境についてそう言える。たとえばメディカルスクールの入学試験では、教授陣が受験生と面接した後に合議により最終合格者を決める方式が多い。まだ断片的なデータしか集まっていないが、次のことは確実に言える。面接を実施して面接担当者が最終決定を下すやり方は、選抜の精度を下げる可能性が高いということである。というのも面接担当者は自分の直感に過剰な自信を持ち、印象を過大に重視してその他の情報を不当に軽視し、その結果として予測の妥当性を押し下げるからだ。」

拡大shutterstock.com

 この指摘を採用面接に当てはめると、会社の人事担当者という専門家が採用の可否を判断するよりも、AIに判断させたほうが会社の必要とする人材を獲得できる可能性が高いことになる。ゆえに、世界中でリクルートにおいてAIを利用する動きが広がっている。

 日本の場合、多数の入社希望者がいる大企業で、いわゆる「エントリーシート」(ES)という応募書類のなかから人数を絞るためにAIを導入するところが増えている。これは、あくまで面接試験に臨む人数を絞り込むための作業であり、過去のESの内容とそれを書いた学生が書類選考を通過したかの情報を結びつけて判断基準を設けて点数化し、それをAIに覚え込ませ、これまでの人手をかけた膨大な作業を省こうというものだ。

 その妥当性をめぐってはさまざまな意見があるだろう。ただ、この例は面接そのものにAIを利用するという、カーネマンの話とはまったく別の話だ。

動画面接でAI活用

 ワシントンポスト紙(2019年10月22日付電子版)に「顔をスキャンするアルゴリズムがますますあなたが仕事に値するかを判断する」という記事が掲載された。

拡大ハイアービュー社の宣伝動画の画面から
 そこで紹介されているのは、リクルートのためのデジタル技術を開発・販売しているハイアービュー(HireVue)という会社である。同社は、「AIによる評価」(AI-driven assessments)というシステムを開発し、デジタル面接を通じたAI判断による選考方法を売り込んでいる。ヒルトン、ユニリーバ、ゴールドマンサックスといった大企業を含む100社以上がすでにこの方法を利用している。

 具体的には、動画面接を行い、候補者の表情の変化、言葉の選択、声の調子などを分析して他の候補者と比較したランクづけをAIが行う。標準的なケースでは、30分間に6つほどの質問をし、50万ものデータ・ポイントを示すことが可能となり、それらすべてが評価の構成要素となっている。

 たとえばクレームをつける怒った顧客への対応をどうするかといった質問への受け答えの表情や声などを評価対象とするのだ。ただし、11月6日に、人権団体の電子プライバシー情報センターは連邦取引委員会に対してハイアービューの活動が「不公平で欺瞞的」であるとして調査を訴えるといった出来事まで起きている。訴状によれば、人々の顔や声を細かく調べる、証明されていないAIシステムの利用はアメリカの労働者にとって大きな脅威になっている」と指摘している。

 米国の大企業では、日本のESのように選抜の入り口でこうしたAIを利用した自動システムの導入も広がっている。ハイアービューのライバル、VCVは電話インタビューを使って応募者の答えや声を分析する自動選別マシーンを開発・販売しているし、シリコンバレーの新会社、アライオー(AllyO)は自動リクルート・ロボットを販売している。

 実は、日本でも、就職活動者と採用企業とが動画で結びついたサービスがすでにはじまっている。自己PRの動画をアップロードしてもらって、それを採用企業が判断するもので、ビデオマッチングという会社が2019年6月からこうしたサービスを開始した。伊藤忠グループやエイベックスなどの企業が月5万円をビデオマッチングに支払う一方、就活生は無料で利用できる。まだAI利用にまでは至っていないようだが、こうしたサービスにAIを付加して精度を上げることも可能だろう。

 米国では、AI対策を講じる動きもある。たとえば、デューク大学の経済学部では、ハイアービューのインタビューへの対策ガイドを提供している。「あなたにとって誠実さとは何を意味していますか」といった典型的な質問への答え方や身振りの助言などをアドバイスしている。他の多くの大学でも話し方や外見などを学生に訓練するための特別の努力をしている。そうなるとAIの側でも、就活者を点数化したりランクづけしたりするうえで新たな改良の必要性が出てくるだろう。

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筆者

塩原俊彦

塩原俊彦(しおばら・としひこ) 高知大学准教授

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士(北海道大学)。元朝日新聞モスクワ特派員。著書に、『ロシアの軍需産業』(岩波書店)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(同)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)、『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)、『ウクライナ2.0』(同)、『官僚の世界史』(同)、『探求・インターネット社会』(丸善)、『ビジネス・エシックス』(講談社)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ社)、『なぜ官僚は腐敗するのか』(潮出版社)、The Anti-Corruption Polices(Maruzen Planet)など多数。

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