「自衛隊派遣は、当地の事情を考えると有害無益です」と断言した姿に感動した日
2019年12月19日
12月14日、NHKはアフガニスタン問題に関する極めて重要なニュースを伝えた。これを追いかける新聞報道を待っていたが、本稿執筆時まで、私が知る限り、大きく扱った新聞はない。
NHKが伝えた概要はこうである。
アメリカの有力紙、ワシントンポストが、アフガニスタンでの軍事作戦や復興支援をついて特別監察官が政府高官から聴取した証言記録を入手して公表した。それによると、当局者の多くが作戦は失敗だったと認識していること、そして当局に不利なデータの意図的な隠蔽や改ざんが繰り返されていたことが記されているという。
今さら何を言っているのかと腹立たしい。しかし、今さらであっても、アフガニスタンをめぐる公式記録が明らかにされたことには、さすがアメリカと敬服もした。
公式記録に対する日本とアメリカとの違いをあらためて痛感する。
思い起こすのは、2014年7月1日の集団的自衛権の行使容認の閣議決定である。国のあり方を左右する集団的自衛権の行使容認を閣議決定によって可能にしたこと自体、大きな問題だが、その閣議決定の重要な根拠とされた内閣法制局の議論を、「記録していなかった」ですませて平気でいるというのは、法治国家として実に恥ずかしいことだ。
話を戻す。
米下院は来年の年明けから、証言記録をまとめた特別監察官を呼んで、実態の解明に着手するという。
アフガニスタンでの軍事作戦の引き金となった、いわゆる9・11同時多発テロが起きたのは2001年9月だった。アメリカ全土に高まった“愛国心”を背景に、ブッシュ政権はそれから1カ月もたたない10月7日に、アフガニスタンへの空爆を開始した。
テロの首班はアルカイダの指導者オサマ・ビンラディンであると断定したうえで、その彼をアフガニスタンのタリバン政権がかくまっているというのが、空爆の理由だった。
ブッシュ大統領は当時、この戦争を「自衛戦争」であると言明した。ただ、アメリカの世論を考えると、実態は“復讐戦争”といったほうが当を得ているかもしれない。
口が滑ったのか、ブッシュ大統領は「十字軍だ」とまで言ったが、さすがにこの表現は不適切だと周囲から指摘され、撤回された。仮に十字軍だとすれば、キリスト教徒によるイスラム教徒(ムスリム)に対する全面戦争というかたちになり、ことが重大になりすぎるからだ。
とはいえ、撤回はしたものの、アフガニスタンへの軍隊派遣は「十字軍」であるという意識が、キリスト教福音派から強い支持を受ける大統領のホンネだと受け止める人が多かった。
そうしたなか、10月13日の衆院テロ防止特別委員会に参考人として呼ばれたNGO「ペシャワール会」の現地代表である中村哲医師が、断固とした意見を述べた。その姿をテレビのニュースで視(み)たときの感動を、私はいまも忘れない。
アフガニスタンで飢餓に苦しむ人びとを救う活動を続けていた中村医師は、日本政府で検討されていた自衛隊派遣などのアフガニスタン支援について、こう断言した。
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