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小沢一郎が閣内に入っていたら…

(27)国家戦略局を設定した松井孝治がみた小沢一郎・下

佐藤章 ジャーナリスト、元朝日新聞記者、五月書房新社編集委員会委員長

一番有効に機能したのは小沢幹事長室だった

 国家戦略局の設置、首相補佐官枠の増員、政治任用の拡大などを盛り込んだ政治主導確立法案は、2010年2月に鳩山由起夫内閣によって国会に提出されたが、衆院で継続審議となった。同年夏の参院選で自民党が勝ったことにより、2011年5月、菅内閣が撤回した。

――国家戦略室を国家戦略局に格上げする重要な政治主導確立法案は、最後は撤回という寂しい結果となりましたね。

松井 政治主導法案は、野党時代から松本剛明議員などごく少数の方々と内々議員立法の叩き台を用意していたのですが、私はこの手の法案は閣法で出すべきとの信念があり、内閣官房に特命チームを作成して臨時国会中に大車輪で起草作業を進めていくことにしました。

 最初の臨時国会で出せないかとも思いましたが、最終的には政府与党一元化に向けて副大臣や政務官、首相補佐官を増員する構想の具体的人数や、国会審議活性化法の経緯にもかんがみ閣法で出すか議員立法で出すかなどの調整に時間を要し、結果的には越年しました。当初から、法律の裏付けがなくても、デファクトで税財政の骨格を編成すべきではないかと思って政権発足直後に国家戦略室を作るんですが、まず菅さんが、そこを有効に使って予算編成の基本的な枠組みをやろうじゃないか、というふうにはなっていかないんですね。

 仕方ないので、行政刷新会議の事業仕分けの方で、予算編成に対して官邸主導である程度ものが言えないかという方向に、10月以降転換していくわけです。

 でも、それでは無駄を削るというある種のパフォーマンスとしてのショーはできるけど、予算編成の骨格を作るというところまではできません。シーリング方式を廃止して、本来は国家戦略局がそこを埋めて予算編成方針を作っていくということになるんですが、その国家戦略局がワークしていないものですから。行政刷新会議は世の中には訴えるんだけど、予算編成方針にはなりません。

 そんな中で、シーリング枠だけは外されたものですから、巨額の予算要求が各省から出てきて、歳出削減については、前原誠司さんが国土交通省の予算を削減する努力をしたほかは、厚労省にせよ、文科省にせよ、総務省にせよ、政治主導を主張して、官僚折衝で要求官庁と財務省が事務レベルで落としどころを探ることを認めない。藤井裕久先生は政権交代前には、政権さえとれば10兆単位の予算削減は可能とおっしゃっていたけれど、予想通り、そんな魔法のような歳出削減策はないどころか、歳入欠陥が大きすぎてどうにも予算編成に苦労しました。

 古川元久さん(内閣府副大臣)と相談し、例えば子ども手当の地方負担や事業者負担の在り方なども、私のところに総務省、厚労省の幹部官僚たちに来てもらって知恵出しを図るのだけれど、大臣を含めた政務三役のところに上げると妥協するなと怒鳴られるとか、困難を極めるわけです。

 最後に一番有効に機能したのは、皮肉なことなんですけど、小沢さんの陳情要請本部(民主党幹事長室)で、結局、陳情や要望を一括して受けるというその枠内で、どう収めていくかという形でサポートしてもらいました。

 だから、小沢幹事長が仕切る与党の陳情要請本部の方でどうプライオリティをつけるかというところが、内閣の予算方針を作っていく上で大きな助けとなりました。ぼくらから言うと、それは政府与党一元化と言えば言えるんですけど、当初思っていた政府主導の一元化とは違い、与党主導の一元化ということで決着していくわけです。

――2010年度の予算編成の形を最後の方までお話しいただいたんですが、少し前の方に戻ってお聞きしたいと思います。国家戦略局に来てもらう人材について、松井さん自身が主要官庁と話をつけて、将来次官級になるような枢要な人たちに来てもらうことになっていたということですね。

松井 当初、民主党の政権交代には求心力がありましたから、「ぜひ、この人が欲しい」というようなことを申し上げました。

――松井さんがおっしゃったんですか。

松井 はい。のちに財務省、経産省、総務省それぞれの次官になるような方々に目を付けて、当時、内閣官房副長官補室にそれら三省から3人のエース級の審議官に張り付いてもらいました。本来国家戦略局になる前提の国家戦略室に出向いただくということで各省の人事当局とお話ししていたんですが、国家戦略担当大臣が、そうしたエース級の人材を採ると官僚主導になるからという理由で、いつまでたっても首を縦に振られないので、年明けに、しびれを切らせて、とにかく補室に来てもらったんです。

 その方々については、結局、予算編成がらみの仕事はさしてなく、しかし、C型肝炎問題や温暖化対策立法の問題を筆頭に各省調整事務に関しては様々な調整困難案件があったので大活躍されることになります。

――菅直人さんと大蔵省(財務省)との関係では、私にも首を傾げた経験があるんですよ。1998年の財政機能と金融機能の分離問題の時に、仙谷(由人)さんに請われて不良債権問題に関して協力したんですね。その際に、民主党代表だった菅さんに何度か会って「財金分離を嚆矢に霞ヶ関改革、政権構想を打ち出せば政治主導のチャンスを握れるじゃないか」と説得したんですが、菅さんの答えは「大蔵省問題は10個ある問題のうちの一つに過ぎない」という素っ気ないものでしたね。

 もうひとつは、やはり二重権力の問題ですね。国家戦略局はやはり戦前の企画院のような屋上屋を作ってしまうのではないか、という問題意識が当時民主党の中にあって、そのリポートまで作られて菅さんや小沢さんの許にも行ったんですね。しかし、松井さんはそのあたりもお見通しで、結局「総理は一人では予算編成などはできない」ということですよね。例えば、経済財政諮問会議の例で言えば、小泉純一郎さんにとっての竹中平蔵さんのような形が必要だということですね。

 そのあたり、民主党内で意思の疎通がうまくいっていれば、また違った形になったかな、という気がしますが。

松井 意思の疎通というより、やっぱり、最後はそこにどれだけエネルギーを注ぎ込むかという思いが民主党の皆さんにあったかどうかということだと思います。

 鳩山さんも2009年の代表選挙の時に国家戦略局を取り上げたんです。鳩山さんはその後も、これは大事な法案だとおっしゃっていましたが、普天間問題とかでドタバタしている時に、本当に「これだけは仕上げなきゃ」という執念があったと言うと、なかったと思う。それは、ぼくらが鳩山さんにどれだけその重要性について説得的に話ができていたかということの反省点です。

――政治主導確立法案を閣法で出すか議員立法で出すかという問題ですが、小沢さんの考えでは「国会改革の一環だから議員立法が筋」ということでした。そのあたりはどうだったんでしょうか。

松井 その考えはわかるんです。ただ、議員立法にすると、できる限り、全会派の一致で物事を進めるというのが原則となり、与党・多数党だけでは話が前に進みません。だから、こういう戦略的な法案を議員立法で出すと成立が遅れるのは当たり前の話です。

拡大松井孝治氏

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筆者

佐藤章

佐藤章(さとう・あきら) ジャーナリスト、元朝日新聞記者、五月書房新社編集委員会委員長

ジャーナリスト学校主任研究員を最後に朝日新聞社を退職。朝日新聞社では、東京・大阪経済部、AERA編集部、週刊朝日編集部など。退職後、慶應義塾大学非常勤講師(ジャーナリズム専攻)、五月書房新社取締役・編集委員会委員長。著書に『ドキュメント金融破綻』(岩波書店)、『関西国際空港』(中公新書)、『ドストエフスキーの黙示録』(朝日新聞社)など多数。共著に『新聞と戦争』(朝日新聞社)、『圧倒的! リベラリズム宣言』(五月書房新社)など。

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