ポピュリズムの悪循環を断ち切るには
強い官邸とは異なる意見や批判勢力が育ってこその民主主義だ
田中均 (株)日本総合研究所 国際戦略研究所 理事長/元外務審議官
ポピュリストが台頭する欧米
最近、海外でのセミナーや国際シンポジウムで頻繁に議論されるのは、ポピュリズムが民主主義的統治を損ないつつあるのではないかとの懸念だ。
ポピュリズムとは専門的な知見や冷静な判断を凌駕する感情的なうねりである。近年、欧米先進国では長年鬱積してきた不満が社会を分断し、既成の政治勢力を見限り、ポピュリスト勢力が台頭してきた。
BREXITやトランプ現象は何れもポピュリズムによるところが大きいとされる。今日のSNSの普及は論理より感情を伝達することを容易にした。
欧州の場合、国民の不満の根幹にはEU統合の在り方があるのだろう。
EU統合により人の流れが自由化され、移民や難民が若年労働者の職を奪い治安を乱している、そしてEUは議会の監視から離れたブリュッセルの官僚による支配を招いたとみられてきた。これが反EU感情を生み、BREXITや各国の既成政党の退潮、反EU政党の台頭に繋がったのだろう。
ようやく英国では総選挙で保守党が大勝しBREXITに道が開かれたが、BREXIT後の欧州の帰趨は予断を許さない。英国とEUの自由貿易協定の交渉は容易でないし、十分でない協定はスコットランドや北アイルランドの政治問題に容易に繋がる。そして英国の抜けたEUの力は衰えざるを得まい。
アメリカにおいては社会の分断は凄まじい。
ブッシュ大統領の8年間はテロとの戦いとイラク戦争という消耗戦を余儀なくされ、人命の損失と膨大な財政負担への人々の不満は蓄積され、2008年のリーマンショックは米国に存在する極端な所得格差を白日の下に晒し、オバマ大統領の8年間ではオバマケアや同性婚の認知など極めてリベラルな政策に対する保守派の不満も極に達した。深刻な社会のイデオロギーの対立がもたらされ、既成の政治勢力を嫌う人々はトランプ大統領選出へと動いた。
大統領選挙を一年後に控え、下院で弾劾訴追されたトランプ大統領は再選という事になるのか。