強い官邸とは異なる意見や批判勢力が育ってこその民主主義だ
2019年12月20日
最近、海外でのセミナーや国際シンポジウムで頻繁に議論されるのは、ポピュリズムが民主主義的統治を損ないつつあるのではないかとの懸念だ。
ポピュリズムとは専門的な知見や冷静な判断を凌駕する感情的なうねりである。近年、欧米先進国では長年鬱積してきた不満が社会を分断し、既成の政治勢力を見限り、ポピュリスト勢力が台頭してきた。
BREXITやトランプ現象は何れもポピュリズムによるところが大きいとされる。今日のSNSの普及は論理より感情を伝達することを容易にした。
欧州の場合、国民の不満の根幹にはEU統合の在り方があるのだろう。
EU統合により人の流れが自由化され、移民や難民が若年労働者の職を奪い治安を乱している、そしてEUは議会の監視から離れたブリュッセルの官僚による支配を招いたとみられてきた。これが反EU感情を生み、BREXITや各国の既成政党の退潮、反EU政党の台頭に繋がったのだろう。
ようやく英国では総選挙で保守党が大勝しBREXITに道が開かれたが、BREXIT後の欧州の帰趨は予断を許さない。英国とEUの自由貿易協定の交渉は容易でないし、十分でない協定はスコットランドや北アイルランドの政治問題に容易に繋がる。そして英国の抜けたEUの力は衰えざるを得まい。
アメリカにおいては社会の分断は凄まじい。
ブッシュ大統領の8年間はテロとの戦いとイラク戦争という消耗戦を余儀なくされ、人命の損失と膨大な財政負担への人々の不満は蓄積され、2008年のリーマンショックは米国に存在する極端な所得格差を白日の下に晒し、オバマ大統領の8年間ではオバマケアや同性婚の認知など極めてリベラルな政策に対する保守派の不満も極に達した。深刻な社会のイデオロギーの対立がもたらされ、既成の政治勢力を嫌う人々はトランプ大統領選出へと動いた。
大統領選挙を一年後に控え、下院で弾劾訴追されたトランプ大統領は再選という事になるのか。
そこで問われる。毎年首相が交代すると揶揄されてきた日本で、安倍第二次政権の7年間の政治の安定は特筆すべきだ。欧米先進民主主義国とは対照的な安定ぶりだ。
日本には、蓄積された国民の不満が社会を分断し、ポピュリズムが政治の表舞台に出てくることはないのか。
私は、実は日本でも根強いポピュリズムが長年存在してきたと思う。
1990年以降のバブルの崩壊、低成長、その結果失われた10年~20年の間に、国民の不満は間違いなく蓄積された。更に敗戦後長く続いた日本の過去の歴史を意識した対外的な低姿勢に人々は不満を募らせ、近隣諸国が大きな成長を達成し台頭してくるのを目の当たりにするつけ、何故もっと主張しないのか、と言うナショナリズムが大きく頭をもたげてきた。
2009年に政権を握った民主党のリベラルなアプローチはそのような国民の蓄積された不満に応えることは出来なかった。民主党政権にとって代わった安倍政権は、戦後体制からの脱却・主張する外交・アベノミクスを掲げ、国民の不満を見事に吸収した。安倍首相は憲政史上最長の在位期間の首相となった。
しかし今日、そのようなポピュリズムの弊害が表面に出てきた。高い支持率に依存した強い政権が陥り易い悪循環だ。
例えば任命した閣僚の不祥事が伝えられると十分な説明を尽すことなく辞任し、国会を長期に欠席するといった事態も容認されている。また、英語民間試験の導入や「桜を見る会」について批判が出た途端に十分な説明責任を尽すことなく取りやめを決定する。その間色々な疑問についても納得いく説明に到底なっていないことは明らかであろう。
政権にとっては支持率に響かせないようにするという考慮が説明責任を果たす以前に重要と映っているようだ。官僚の側の忖度もますます強くなっているように感じる。
支持率が大きく落ちることなく、且つ選挙で勝てばそれで良く、その結果さらに権力基盤を固めた政権に対し忖度が働く統治が更に進むという悪循環を繰り返していくという事か。それで国のために真に必要な施策が講じられていくということになるのか。本来議論を尽くすべき成長戦略や社会保障改革、公的債務削減といった課題は置きざりにされているのではないかと言う懸念を持つ。
外交の世界は相手国を巻き込むだけに、国内世論を意識し過ぎた外交では結果を作れない場合が多い。相手にも世論はある。余り懸案がない友好国との外交は度重なる相互訪問や首脳会談により間違いなく関係は緊密化する。
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