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日韓請求権協定への姿勢の相違

 2018年10月に韓国大法院にて徴用工判決が下され、年が明けた2019年1月9日、日本の外務省は対話による解決を目指し、韓国政府への働きかけを開始した。しかし、日本政府全体として見ると、安倍首相は同判決に対し「国際法に照らしてあり得ない判断」と批判し、河野外務大臣(当時)は「日韓間の法的基盤が根本から損なわれた」と発言していたように、韓国側の姿勢を強硬にさせる態度をも同時に見せていた。

 一方で、韓国政府は三権分立の意識から大法院判決に対しての介入を避けつつ、日本との距離を測りかねていた。その理由としては、前掲のような閣僚の発言や経済制裁(輸出規制)を行うとの情報がありながら、文政権自体に日本とのパイプが少ないこともあって、日本で高まる韓国政府への不満の増大を捉えかねていたことが大きい。この時点で、韓国側が何らかの案を提示する、あるいは協議に応じる姿勢を示せば、事態が変わっていた可能性はある。この点は韓国の失策であった。

 そして、1965年に締結した「日韓請求権協定」(財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定)3条1項では、同協定の解釈及び実施について紛争が発生した場合は「まず、外交上の経路を通じて解決する」と記載されており、それが叶わない場合、同条2項により、紛争の仲裁を要請する公文を他方の政府が受領した日から30日以内に仲裁委員を任命し、締約国に代わって仲裁委員を指名する第三国を選定し、仲裁委員会を設置するとされていた。

 そこで、日本政府は5月20日、仲裁付託を韓国政府へ通告した。しかし、韓国側が外交による解決および仲裁委員会設置に対する提起にアクションを起こさなかったため、それに業を煮やした日本政府と制裁的な対応を求める勢力との意図が合致し、安倍政権は強硬な措置を進めていったのである。

 すると、ようやく韓国政府も重い腰をあげ、かつて在日韓国大使館で2等書記官、経済課長、公使参事官として従事し、外交部でも東北アジア通商課長や東北アジア局長を務め日本での言論活動も行っていた趙世暎(チョ・セヨン)を第1外務次官に就任させた。

 その後、韓国は趙外務次官を窓口として、前掲の期限内の6月19日に徴用工問題への対案として「両国の企業が自発的な拠出金で財源を作り、被害者に慰謝料を支払う」との方針を示し、改めて日韓請求権協定の3条1項に定める外交協議に応じるとの立場を示した。日韓請求権協定が2国間で設定されたものであることを考えれば、同3条1項の「外交的解決を第一とする」との基本方針に基づき、日本が条文を柔軟に捉えることは可能であった。

 しかし、日本政府は既に仲裁委員会の設置を申し出ていたこと、および韓国の提案内容が受け入れられないことをもって、外交的解決を望む韓国の提案を拒否した。この時点で韓国は対話路線への舵を切ったものの、その後の状況を見るに、日本政府は既に対話路線を放棄しており、輸出規制による圧力強化によって日本政府の求める「1965年の日韓請求権協定にて問題は解決済み」との方針を韓国にのませる方向へ進んでいたと考えられる。

 実際に、6月末に大阪で行われたG20(主要20カ国・地域首脳会議)に合わせて、韓国側は日韓の首脳会談を要請した。しかし、文大統領が来日した27日午後に安倍首相はタレントとの面談は行いつつも、

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筆者

金恵京

金恵京(きむ・へぎょん) 日本大学危機管理学部准教授(国際法)

国際法学者。日本大学危機管理学部准教授、早稲田大学博士(国際関係学専攻)。1975年ソウル生まれ。幼い頃より日本への関心が強く、1996年に明治大学法学部入学。2000年に卒業後、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科修士課程に入学、博士後期課程で国際法によるテロリズム規制を研究。2005年、アメリカに渡り、ローファームMorrison & Foester勤務を経て、ジョージ・ワシントン大学総合科学部専任講師、ハワイ大学東アジア学部客員教授を歴任。2012年より日本に戻り、明治大学法学部助教、日本大学総合科学研究所准教授を経て現在に至る。著書に、『テロ防止策の研究――国際法の現状及び将来への提言』(早稲田大学出版部、2011)、『涙と花札――韓流と日流のあいだで』(新潮社、2012)、『風に舞う一葉――身近な日韓友好のすすめ』(第三文明社、2015)、『柔らかな海峡――日本・韓国 和解への道』(集英社インターナショナル、2015)、最新刊に『無差別テロ――国際社会はどう対処すればよいか』(岩波書店、2016)。

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