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フランス人がデモやストにイソイソと参加するわけ

恵まれた老後を保障するフランスの年金制度。政府の改革案を巡り地下鉄、国鉄がスト。

山口 昌子 在フランス・ジャーナリスト

発端は政府の年金制度改革案

拡大フランスのマクロン大統領=2019年10月18日、ブリュッセル
 とはいえ、フランスでも日本同様、少子高齢化の波が押し寄せている。マクロン大統領は大統領選のキャンペーン当時から、公約の一つに「年金制度改革」を掲げていた。

 今回の年金制度改革は、年金制度の巨額の赤字を多少とも解消しようとするもので、フィリップ首相率いる政府が当初、発表した改革案の内容は、定年を63、64歳に引き上げること、これまで国鉄や地下鉄従業員に与えられていた「特別制度」を廃止することが骨子だ。

  この改革案への抗議として、公共交通のストが始まったのは12月5日。5日当日のスト参加数は主催者(共産党系最大労組・労働総同盟=CGT)発表で約百万にのぼった。しかも、当初の主催者側の発表と異なり、その後も連日、ストが続き、12月17日の13回目のストでは、パリだけで約35万人が参加した。

 ストの広がりを受け、政府は改革案の一部の変更を余儀なくされた。フィリップ首相が12月11日に発表した妥協案の内容は、2027年まで現行の原則62歳定年を維持、それ以降に64歳にするというものだった。その一方で「特別制度」の廃止は堅持したが、これが「首相の発表は火に油」(フランス労働総同盟、CGT)と猛反発をくらった。

時代遅れの「特別制度」だが……

 「特別制度」とは何か。これが、いかにも老大国フランスらしく、第1次世界大戦当時の制度を継承したものだ。蒸気機関車が主役だった当時、国鉄の動力は石炭だった。石炭を釜に投げ込みながら、まっ黒になって列車を走らせた重労働なので、彼らには特別に50歳代で定年を迎え、ハッピー・リタイアの生活に入る特典が与えられた、というわけだ。

 また、地下鉄の従業員の場合は、基本的に地下で仕事をするので、太陽を拝めない炭鉱夫と同様に「不健康な生活」を余儀なくさせられているという理由から、同じように50歳代での早期定年の特権が与えられている。

 列車の動力は、とっくの昔に石炭から電力になり、「まっ黒になって働く鉄道員は、ジャン・ギャパン主演の古い名作映画でしか見られないではないか」と反論しても無駄。「地下鉄従業員は週35時間労働、5週間の有給休暇もあるので、日光は十分に拝めるではないか」と言っても、あれやこれやの“正統な理由”を並べ立て、ストが続けられる。

 フランスならではの、こうした「人権尊重」を基本にした「フランス的論理」には、時に笑ってしまうが、彼らにとっては、ストを決行してでも死守するべき、重要な特権なのだ。この改革案の実質的な立案者が不動産申告で「妻の名義分を忘れた」という、どこかで聞いたような理由がバレて辞任するなどの突発事件も加わり、改革案の行方は、目下、霧の中だ。

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筆者

山口 昌子

山口 昌子(やまぐち しょうこ) 在フランス・ジャーナリスト

産経新聞パリ支局長を1990年から2011年までつとめる。著書に『ドゴールのいるフランス』(河出書房新社)、『フランス人の不思議な頭の中』(KADOKAWA)、『原発大国フランスからの警告』(ワニブックスPLUS新書)、『フランス流テロとの戦い方』(ワニブックスPLUS新書)、『ココ・シャネルの真実』(講談社+α新書)、『パリの福澤諭吉』(中央公論新社)など。ボーン・上田記念国際記者賞、レジオン・ドヌール勲章シュヴァリエを受賞。

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