メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

「改革の政治」が産み落とした鬼子としての維新

平成政治を問い直す【6】「政治主導」から独裁の肯定へ

大井赤亥 東京大学非常勤講師(政治学)

「政治主導」から「独裁」の肯定へ

 「改革保守」の特徴は強いリーダーシップによって行政機構の縮小再編成を行うものであり、大阪維新もまたそのパターンを踏襲している。

 大阪維新はその政治手法として「決定できる民主主義」を標榜し、独自の手法で「政治主導」を実践していった。橋下の政治手法は敵と味方を明確に区別する「ケンカ民主主義」であり、ここにおいて「政治主導」は、乱暴な言葉で論争を盛りあげては選挙で白黒決着をつけようとする「選挙至上主義」へと展開されていった。

拡大大阪市長選、府知事選のダブル選に勝利して橋下氏から知事の引き継ぎを受ける松井一郎氏=2011年11月29日

 ダブル選勝利を受け、維新は松井を本部長、橋下を副本部長として府市統合本部を設置。府市統合本部は大阪行政の司令塔として、府市の類似事業の仕分け、広域行政の一元化、港湾や水道などの一体運用を進めていく。このような決定系統の一元化は、維新による迅速かつトップダウン型の政治手法を可能にした。

 橋下による「政治主導」は、時に「時限的な独裁の肯定」にまで行きつくものでもあった。2011年6月、橋下は「今の日本政治で一番必要なのは独裁」と発言して物議を醸す。政治的リーダーシップの強化を追求してきた「政治主導」の掛け声は、橋下政治に至って「独裁」の肯定に帰結することになったのである。

 その後も維新は、「あほでバカ」「ウソつき」などの過激な民進党批判で1年に4度も懲罰動議を出された足立康史や酒に酔って戦争を肯定した丸山穂高など、多くの問題議員を輩出してきた。元来、1990年代に「政治改革」の旗振り役をした政治エリートたちは、自らが進める制度変革が橋下徹のような粗暴な政治家を生み出すとは想像していなかっただろう。その意味で橋下政治は、「改革の政治」が意図せずして生みだした鬼子であった。

市役所改革の断行

 「時限的独裁」によって橋下が行なった「改革」は、第一に市役所改革であった。

 大阪市役所ではかねて市長、議会、職員労働組合の間のなれあいが形成され、それらは市役所の所在地をもって「中之島一家」といわれてきた。

 2000年代以降、組織的なカラ残業、異常な退職手当やヤミ年金、職員に対する家電製品やスポーツ観戦券の支給、職員の子どもの入学や結婚に際した祝い金制度など、市民には納得しがたい大阪市役所の職員厚遇が明らかになり、「職員の職員による職員のための市役所」の実情が暴露されていったのである。

 橋下による市役所改革の柱は第一に職員規律の強化であり、「公務員の身分保障が甘えを生む」という発想の下、「民間のような厳しい競争原理」の導入が図られた。その際に橋下が敵役と見立てたのが職員労働組合であった。

 橋下は労組との激しい対立の末、2012年5月、職員評価に相対評価を導入し、2年連続で最低ランクの評価を受けた職員には解雇もありうるとした職員基本条例を制定させる。

 市役所改革の第二の柱は市政への民間活力の導入であり、橋下は行政職への民間人登用を推進した。民間人登用の対象となったのは区長や市立小中学校長であり、橋下は企業経営者やコンサルタント、首長経験者などを「僕の身代わり」として公職に登用していくことになる。こうして民間から採用された区長や校長は、その後、重要会議の欠席、ツイッターでの攻撃的発信、セクハラやパワハラなどを頻発させて更迭や退職が相次ぎ、人材の質が問われた。

 しかしながら、橋下による役人の「既得権」剥奪は、市民や府民の支持を確実に獲得するものであった。有馬晋作によれば、「職員労働組合との対立姿勢を伴ったスピード感ある市政の改革は、日頃から行政の非効率や官僚組織などに不満を持つ市民にとっては、新鮮で強いリーダーシップを発揮しているようにみえ支持率も高くなった」(注3)。労働組合は大阪市の税金を食い物にする「既得権」の牙城とされたのである。

 消費者金融の営業マンを主人公にして大阪の市井の人間模様を描いた漫画として、青木雄二の『ナニワ金融道』(講談社)がある。この漫画で一番

・・・ログインして読む
(残り:約2960文字/本文:約6097文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

大井赤亥

大井赤亥(おおい・あかい) 東京大学非常勤講師(政治学)

1980年、東京都生まれ、広島市育ち。東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得退学。博士(学術)。現在、東京大学の他、法政大学、成城大学、昭和女子大学、東京理科大学で講師を務める。著書に『ハロルド・ラスキの政治学』(東京大学出版会)、共著書に『戦後思想の再審判』(法律文化社)など。

大井赤亥の記事

もっと見る