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その「ひとこと」が日韓をこじらせる

日韓関係から言語コミュニケーションと政治外交を考える

徐正敏 明治学院大学教授(宗教史)、キリスト教研究所所長

「今日はちょっと…」

 筆者が留学のため日本にやってきたときのこと、同じ大学の留学生で、滞在歴では先輩であるひとりの友人が、日本での生活経験のエピソードを楽しく聞かせてくれた。彼は同じクラスの女子学生に心惹かれ、デートを申し込んだ。

 「今日、可能なら、私と一緒に食事して、映画を一本みるのはどうですか?」

 たどたどしいが、まさに典型的なデート・プロポーズである。

 戻ってきた答えは、「今日はちょっと…」。

 友人は非常に満足して、うれしかったという。彼は自分のプロポーズが通じたと考えたのだ。自分のプロポーズはOKだが、彼女は今日は都合がわるいという意味だと解したのである。

 それで友人は、その次の日にも、また数日後にも同じように声をかけたが、戻ってきた答えはやはり「今日もちょっと…」とか、「実はちょっと…」というものだったそうだ。

 さすがの友人も、ようやくそれが「いいえ」という意味、デートの拒否であることに気付いたという。つまり、自分のデート・プロポーズを婉曲に拒絶する意思表示が、いわゆる「省略法」をもって何度も表現されていたことを理解したという話であった。

拡大KERIM/Shutterstock.com

 上記のエピソードは、否定の意味を伝えるやり方には、さきに書いたネイティブ・アメリカンのような仮定法もあるが、日本語に頻繁にみられる省略的表現によっても可能であることを教えてくれる。

 その話を聞かせてくれた友人は、韓国語を話す若者同士だったら、すぐに「イエス」(Yes)か「ノー」(No)かを直接的に表現していただろうとこぼしたが、筆者もその通りだと思う。

 デートを申しこむ相手に対して、即座にそして明確に諾否の意思を答える確率が韓国語圏でははるかに高い。現在では日本語圏の文化的な雰囲気も変わってきているのかもしれないが、筆者が最初に留学した三十年前の日本では、特に女性の言語表現は婉曲的で間接的になされる傾向が強かったように思う。そのひとつの例がくだんの省略法による意思表示だったというわけだ。

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筆者

徐正敏

徐正敏(そ・じょんみん) 明治学院大学教授(宗教史)、キリスト教研究所所長

1956年韓国生まれ。韓国延世大学と大学院で修学。日本同志社大学博士学位取得。韓国延世大学と同大学院教授、同神科大学副学長、明治学院大学招聘教授、同客員教授を経て現職。アジア宗教史、日韓キリスト教史、日韓関係史専門。留学時代を含めて10年以上日本で生活しながら東アジアの宗教、文化、社会、政治、特に日韓関係を研究している。主なる和文著書は、『日韓キリスト教関係史研究』(日本キリスト教団出版局、2009)、『韓国キリスト教史概論』(かんよう出版、2012)、『日韓キリスト教関係史論選』(かんよう出版、2013)、『韓国カトリック史概論』(かんよう出版、2015)、『東アジアの平和と和解』(共著、関西学院大学出版会、2017)など、以外日韓語での著書50巻以上。

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