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富裕層狙いのカジノが成長戦略に不適な五つの理由

IR・カジノなどの公的「富裕層・超富裕層向け観光ビジネスプラン」こそギャンブルだ

米山隆一 衆議院議員・弁護士・医学博士

 元内閣府副大臣(IR担当)の秋元司衆議院議員が中国企業からの収賄容疑で逮捕され(朝日新聞デジタル2019年12月25日)、さらに同じく自民党の白須賀貴樹衆議院議員(朝日新聞デジタル2019年12月25日)、勝沼栄明前衆院議員の事務所に家宅捜索(共同通信デジタル)が入り、政界は騒然としています。

 ぜひ徹底的な捜査をして白黒つけていただきたいと思うのですが、それ以前の問題として、私は、成長戦略としてのIR・カジノをはじめとする公的「富裕層・超富裕層向け観光ビジネスプラン」自体に大きな問題があると思いますので、本稿ではこれについて論じたいと思います。

カジノ解禁法案が採決された衆院内閣委員会で、委員長を務めた秋元司衆院議員=2016年12月2日

富裕層向け観光ビジネスプランと地方創生

 いうまでもないことですが、カジノを含む統合型リゾート、いわゆるIRは、アベノミクスの成長戦略の柱の一つであり、政府によって強力に推進されています(カジノIRジャパン)。IRは、なかには食べることを惜しんでカジノに行く人もいるかもしれませんが、基本的には賭場で「すって」もいいだけのお金を持っている人、いわゆる「富裕層・超富裕層向け観光ビジネス」です。とりわけ、秋元・元副大臣は「超富裕層向け」のカジノを志向していたといわれています。

 また、IRではありませんが、菅義偉内閣官房長官が「日本には高級ホテルが不足している」として、全国50カ所程度で高級ホテル建築を公的に支援する構想を打ち出したことは記憶に新しいところです(朝日新聞デジタル2019年12月7日)。

 この手の公的「富裕層・超富裕層向け観光ビジネスプラン」は、地方の仕事不足が深刻であり、観光による「地方創生」がここかしこで叫ばれている昨今、決して目新しいものではありません。私が知事時代も“新潟創生”の切り札としてそこかしこの観光地で「富裕層・超富裕層向け観光ビジネスプラン」が出され、議論の遡上にあがりました。

 そのなかには「佐渡カジノ」もありました。「新潟空港にビジネスジェット・プライベートジェット専用滑走路を整備して、上越新幹線を新潟空港に乗り入れ、世界の富裕層に、新潟に宿泊しながら上越新幹線で東京オリンピックを見に行ったり東京観光をしたりしてもらう」という、新潟以外の人から見たらかなりぶっ飛んだプランも、まったく冗談ではなく、まっとうな識者が推すまっとうなプランとして知事部局での検討にあがりました。

根拠となるデータが決定的に不足

 私が見る限り、それらのビジネスプランには共通して以下の問題がありました。

 第一に、そのビジネスプランの根拠となるデータが決定的に不足していました。

 一般の訪日外国人旅行者については、移動、宿泊、消費等については、日本政府観光局のデータを筆頭に、自治体レベルで購入した詳細なデータや、さまざまな調査会社のアンケートデータ等があり、ビジネスプランの根拠をある程度検証することが可能だったのですが、「富裕層」の訪日外国人のデータとなると相当に限られ、「超富裕層」の訪日外国人のデータとなると、「世界には保有資産3000万ドル(約33億円)以上の超富裕層が25万5810人いて、前年比10%増えている(フォーブスジャパン)」程度の情報しかないものがほとんどでした。その程度の情報で、ビジネスプランの成功の目算について判断するのは、そもそも無理と考えられました。

富裕層が愛好するサービス提供の目算が立たず

カジノでルーレットに興じる人たち=2019年1月10日、米ラスベガス

 第二に、「富裕層」「超富裕層」が愛好するサービスを提供できる目算が、正直立ちませんでした。

 仮に、ある人が調理師学校を出て飲食店を開業する場合、多少高級路線で売り出すことはあるとして、いきなり「富裕層」「超富裕層」向けの超高級店を開業する人はまずいないでしょう。基本的にはそれなりの売り上げが見込める中間層に対して、某社のコピーで恐縮ですが「お値段以上」のサービス、「値段の割に美味しいよね!」というサービスを提供することで評判をとり、一定の顧客をつかんでから徐々に高級路線に転換するなり、もしくは規模の拡大を目指すのが普通だと思います。

 ブランドを重視する「富裕層」「超富裕層」に新規開業店が食い込むのは容易ではなく、超高級店を開業するなら、すでにブランドを確立した超高級店で長い修業を積むなり、のれん分けしてもらうなりして、お客さんを引き継がなければ難しいということは、飲食ビジネスを例に考えれば常識的にわかる事だと思います。

 ところが、なぜかこれが「地方観光」になると、今までやったこともないビジネスプランで、いきなり世界の「富裕層」「超富裕層」を集客できることになっており、とても現実的なものとは思えませんでした。

地域経済への効果は限定的

 第三に、これらのプランのほとんどは、「地域の利益」という意味でも強い疑問がつくものでした。

 「富裕層」「超富裕層」がホテルに泊まれば、それは1泊100万円の部屋に泊まってくれるのかもしれません。しかし、たまさかぶらりと町に出て買い物や食事をした場合、いかにに高級品を買うとはいえ、所詮1人の人間、消費額も1人分に過ぎません。「富裕層」「超富裕層」が地域の有名店にラーメンを食べに来てくれたからと言っても、1杯1万円を請求するわけにはいかないのです。

 1泊100万円の部屋に泊まる1人の観光客と、1泊1万円の部屋に泊まる100人の観光客を比べたら、宿泊代は同じでも、地域全体に落ちるお金は後者の方がはるかに大きく、実の所「富裕層」「超富裕層」向けビジネスはその事業者がピンポイントで儲かるだけで、地域全体への波及効果は極めて限られることが予想されました。

地元への還元という点でも疑問

 第四に、第三と多少被りますが、「富裕層・超富裕層向け観光ビジネスプラン」は「地元還元」という点でも大いに疑問がありました。

 観光ではありませんが、たとえば我が新潟アルビレックス(すみません)に代表される地域スポーツビジネスは、観客・サポーターの大半が新潟県人(地元の人)で、まずもって地元の人自身が楽しめます。もちろん新潟県人(地元の人)のすべてがサッカー好きではないし、アルビレックスファンでもないにせよ、アルビレックスのホームグラウンドであるデンカビッグスワンデンカスタジアムは、ある時は地元のスポーツイベントに、ある時は慈善事業のイベントにと、地元の人が私的、公的、さまざまに使う事が可能です。

 これに対し、「富裕層・超富裕層向けホテル」「超富裕層・超富裕層向けビジネス・プライベートジェット専用滑走路」となると、地元の人が私的にも、公的にも使う機会は極めて限られます。実際問題、そのようなことに公金を使うのを正当化することは、極めて困難に思われました。

失敗した際のプランはなし

 最後に「富裕層・超富裕層向け観光ビジネスプラン」は、失敗した時の対策がほとんどありませんでした。

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