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2020年 野党の課題/下

地域に根差し、風に左右されない陣地を築け

木下ちがや 政治学者

2020年 野党の課題/上

単なる数合わせではない三党合流

 昨年11月29日に投開票された高知県知事選は、共産党系無所属候補の松本けんじの応援に全野党の党首・幹部が駆け付けるという異例の選挙になった。松本は敗北したものの、間をおかず12月5日に都内で慰労会が開催され、全野党の党首クラスが参加し、さらなる結束を確認している。

高知県知事選挙の決起集会であいさつする野党統一候補の松本顕治氏。壇上には中村喜四郎氏、平野貞夫氏など保守系の野党重鎮も並んだ=2019年11月2日、高知市

 高知県知事選に全野党幹部を集め、慰労会を企画した立役者は、この間、野党のなかで急速に存在感を増している中村喜四郎である。中村は高知県知事選についてこう述べている。

 「今度、高知の県知事選で約6万2千票の差ができたけど、オール野党で戦っていったら、自民党は慌てた。戦ってくれば、慌てるに決まっているんですよ。何万票差つけたって、戦ってくるのは怖いんですよ。今度ひっくり返されるかもしれないと。当然そう思いますよ」(注3)

 中村喜四郎は、かつては仇敵だった日本共産党の候補を全力で支えることで、政権与党に対して「真剣に戦う姿」をみせつけたのである。安倍総理が漏らした「この一点」に全力を注ぐことで、立・国・社三党の合流を促進していくという、前例のない方程式を解くことに挑んでいるのだ。

 事実、これ以降の合流プロセスは、共産党との連携・対話の強化と並行してすすんでいる。12月15日には立憲民主党枝野代表と共産党志位委員長が会談し、衆院選の協力で一致、12月20日には国民民主党玉木代表と志位委員長がYouTube「たまきちゃんねる」に共演し、政権交代での協力を確認した(社民党又市代表と志位委員長は10月に会談し、協力合意をしている)。

 2016年参院選から、共産党をふくむ「野党共闘」ははじまった。しかしこれまでは、民進党、あるいは立憲民主党や国民民主党が、選挙のときに共産党と最終的に候補者を調整するだけのものだった。しかし今進行しているプロセスは、単なる「数合わせ」ではなく、「共産党の潜在力を最大限発揮できるような立・国・社三党の合流」を目指しているように思われる。

(注3) 中村喜四郎インタビュー『野党共闘で保革伯仲を/上』、47NEWS 2019年12月24日

政権が恐れる「手を組むはずがない者同士の団結」

 日本共産党は30万人の党員を抱え、100万以上の「しんぶん赤旗」の読者をもち、2667人の地方議員がおり、全都道府県の地域に地区委員会と支部をくまなく配置している。さらに共産党と連携する労働組合、医療団体、中小企業団体が無数に存在している。

 この組織力は、これまで小選挙区制度によって封じ込められてきた。共産党が単独で小選挙区を勝ち抜ける選挙区はなく、野党共闘以前は全敗を繰り返してきた。したがって自公vs民主の二大政党制化がすすんでいたゼロ年代の日本政治では、ほぼ無視されてきたのだ。

 しかし、2015年に野党共闘がはじまって以後、他の野党は共産党の実力に目を見張ることになる。地区委員会があることで県全体にわたるネットワークと動員力を有し、集会や街頭演説には千人単位の人が常時結集し、ビラ撒きやポスティングをこなす活動家が大量にいる。これは、全県的なネットワークをもたず、後援会、労組だのみの民主党系政治家にはとても真似できないものだ。

 さらに野党共闘がすすむなかで、日本共産党に対しては、いったん闘うと決めたら方針を守りぬくという信頼感が生まれていった。参院選のある1人区では、共産党は統一候補を全力で支援したが、同党のメンバーが中心に作成した選挙ビラには、共産党の名前は一文字もでてこない。ひたすら統一候補を支えることだけに徹していたのだ。こうした態度も、個人後援会中心に活動してきた民主党系政治家にはなかなか真似できないだろう。

共産党第27回大会。壇上には志位和夫委員長(前列中央)と並び、民進党の安住淳代表代行、自由党の小沢一郎代表、社民党の吉田忠智党首ら野党の党首級がそろった=2017年1月15日、静岡県熱海市

 小沢一郎はかつて日本共産党を「もっとも近代的な政党である」と評していた。小沢一郎ははやくから共産党の組織力に注目し、2017年には共産党大会に出席して連携をアピールしていた。だが、組織力に注目したとして、共産党を選挙のときだけの単なる「踏み台」に利用するだけなのか、それとも、野党各党の特性を最大限活かす技法を練り上げていくなかで共産党と日常的な活動をともにしていくのかでは、野党のあり方は大きく変わっていくだろう。

 中村喜四郎はインタビューのなかで、「小沢さんは確信犯的に野党をやっているが...中村は真剣に野党をやっている」と述べている(注4)。「確信犯的」の含意はともかく、真剣に野党をやるなら、どちらの道を選ぶかはおのずと明らかだろう。

 国民、共産、社民、そして「連合」の組織力をいかしつつ、それと立憲民主党が潜在的にもつ無党派層への訴求力をどう有機的に結合し、役割分担していくのか。昨年8月の埼玉県知事選では、野党系大野ともひろ候補の選対事務局長を務めた「連合」電力総連の幹部と、「全労連」傘下の埼玉県労連の委員長が、勝利のあとに固い握手を交わしていた。政権与党が最も恐れているのは、こうした「本来手を組むはずがない者同士が団結する」ことだ。

(注4) 常井健一著『無敗の男-中村喜四郎全告白』文芸春秋、2019年、290頁

「機動戦」より「陣地戦」を

 もちろん、共産党との連携については「政策的に一致できなければ、やれるわけない」という声は常にあがるだろう。天皇制、自衛隊、日米安保等々、社民党はともかく立憲、国民との政策、理念の壁は数多くある。

 しかし全国各地をみわたせば、すでにその壁は乗り越えられている。岩手県や宮城県で共産党を含む野党共闘が進化しつづけているのは、東日本大震災の復興活動をともに取り組んだからである。「オール沖縄」はまさに、安倍政権による沖縄分断への危機感から生まれ、いまや保革共同がごく当たり前のものになっている。

政治学者のヤシャ・モンク氏
 これらの地域の共闘を促進したのは、権威主義的政治への危機感である。政治学者ヤシャ・モンクは、世界的に権威主義的政治を台頭させてしまったリベラルの敗北の教訓を三つ
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