市川速水(いちかわ・はやみ) 朝日新聞編集委員
1960年生まれ。一橋大学法学部卒。東京社会部、香港返還(1997年)時の香港特派員。ソウル支局長時代は北朝鮮の核疑惑をめぐる6者協議を取材。中国総局長(北京)時代には習近平国家主席(当時副主席)と会見。2016年9月から現職。著書に「皇室報道」、対談集「朝日vs.産経 ソウル発」(いずれも朝日新聞社)など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
田中宏さんと考える(5)教育無償化の差別解消や地方参政権の国際水準めざして
ただ、当初は欧米系のインターナショナル・スクールだけという変則的なものだった。
田中「実は、日米貿易摩擦が背景にありました。アメリカから『外国人学校卒業生の大学受験資格を認めないことや、学校が寄付金を受けても税制上の優遇措置を受けられないことなどは、非関税障壁だ』と圧力をかけられたのです。欧米系だけとは許せないと、朝鮮学校からブラジル学校までが国会で院内集会を持ち、文科省や自民・公明両党の関係者らに働きかけ、全面的な開放に結びついていったわけです。その時、公明党の池坊保子・文科大臣政務官が重要な役割を果たされたと思います。当時の公明党は、地方参政権を含め、外国人との共生に何が必要かを本気で考えていました。残念ながら、税制上の優遇措置はいまだに欧米系のインターナショナル・スクールだけという状況が続いています」
在日韓国・朝鮮人差別の歴史はいま、朝鮮学校が高校無償化制度から外されている問題に凝縮されている、と田中さんは思っている。この除外問題は、民主党政権と第2次安倍政権の「合作」のようなものだった。
高校無償化制度は、国公立、私立の高校だけでなく、専修学校や各種学校である外国人学校において、授業料が無償になったり、就学支援金が支給されたりする画期的な制度として設計された。
だが、民主党政権時代の2010年2月、日本人拉致事件を担当する中井洽大臣が、朝鮮高校を外すよう文部科学相に要請した。検討会議で審査することになり、同会議は「外交上の配慮ではなく、教育上の観点から判断すべきだ」と報告したが、11月、北朝鮮による韓国・延坪島砲撃事件の翌日、菅直人首相が審査の「凍結」を指示。退任時に凍結を解除したが、野田佳彦政権も決定を棚上げして民主党政権は幕を閉じる。
2012年12月、安倍政権になって2日後、下村博文文科相が「拉致問題に進展がない」「朝鮮総連と密接な関係にある」ことを理由に「(無償化の指定には)国民の理解が得られない」と、朝鮮学校の無償化の根拠となる規定を削除する狙い撃ちに出た。
日朝関係と絡めた朝鮮学校排除は、2019年10月に始まった幼稚園・保育所無償化(幼保無償化)からも朝鮮学校系の施設を外すことにつながる。生徒や保護者は、教育を受ける権利の侵害だとして国連に訴え、就学支援金を求める裁判を各地で起こしている。
田中さんは2015年、大阪地裁に長文の「鑑定意見書」を提出し、「私人による攻撃とは違い、無償化からの朝鮮高校除外は、国による差別であるところに大きな特徴がある。国連人権機関では、はっきりと『教育における差別』であると認定していることを重く受け止めなければならない」と結論づけた。
冒頭の市民集会で報告された幼保無償化外しの実態によると、無償の対象になったのは5万5千施設、300万人に上るのに対して、対象から外されたのは89施設、3千人とごくわずかだった。そのうち朝鮮幼稚園が40施設、600人を占めている。
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