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中村哲さん逝く、アフガンにて

[167]『国家が破産する日』、菅官房長官の記者会見……

金平茂紀 TBS報道局記者、キャスター、ディレクター

12月3日(火) 午前中、局で「報道特集」の定例会議。会議の最後に、考えていたことを短く発言したがスルーされた。いつものことだ。自由な意見表明や異論反論を許さない、政党書記局会議のようなミーティングにいったい何の意味があるのか。重要なことは会議の外ですでに決まっているし。そういう原則的なことにいちいち腹を立てることに疲れた。

 「調査情報」の原稿を書く。最近、身の回りで相次いで旅立って逝った「同志」たちへの惜別・追悼の想いと、魯迅の『賢人と馬鹿と奴隷』という短編小説について書く。香港の抵抗運動の力強さに触発されたこともあって。今週も「桜を見る会」取材で決まりそうだ。「調査情報」の文章に添える写真を探すため、関係各所をあたってみる。

 夜、読売新聞社に転職した大学の教え子と新宿E。組織メディアに就職した教え子たちもそれぞれに変転がある。

12月4日(水) 久しぶりに朝早起きしてプールへ行く。泳がなければやってられない。午前中、昨日の定例会議で話した性暴力裁判に関する企画書を提出する。

 アフガニスタンのジャララバードで中村哲さんが銃撃されて負傷したとの第一報。現地情報が錯綜しているようだが、死亡者がいるとの情報も。とにかく中村さんは命をとりとめたとの情報だったが、それが午後3時すぎあたりに「暗転」した。テレビ各局で中村さん死亡のスーパー速報が流れる。この世に神などいるものか! 午後4時すぎにテレ朝の知己から電話が入る。「中村さんが亡くなるなんて、何ということなんでしょうか」と絶句気味。電話の主はかなり取り乱していた。

 中村さんとお会いしてインタビューした時の記憶が蘇ってきた。ADさんに調べてもらったら、2014年6月21日のことだった。確か、石風社という福岡の出版社でお話を聞いたはずだ。狭いスペースだったことを覚えている。中村さんはメディアに対して媚びるなどということは微塵もない硬派の人物。それどころか、取材しているこちらが試されているような、何か吟味されているような、緊張感を失わせないような対応の方だった記憶がある。

中村哲さん(1946―2019)中村哲さん(1946―2019)

 それにしても何という悲劇だろうか。スタッフルームに降りて行って、場合によったらネタの差し替えもあるのかと思ったら、スタッフたちは「桜を見る会」というか、ジャパンライフ関係の取材をどう進めるかで熱くなっていて、中村哲さんのことを言いだせるような雰囲気ではなかった。そういう環境のなかで僕は生きている。

 七つ森書館の故・中里英章さんのことでTさんに電話でお話をうかがう。菅谷規矩雄、吉本隆明、島成郎といった名前がぽんぽんと飛び出してくる。高木仁三郎さんや中里さんらが三里塚の田んぼでコメ作りをしていたことなどをうかがった。それぞれの人生には固有の歴史がある。

 夜、評判の高い韓国映画『国家が破産する日』をみる。1990年代の韓国の経済危機に際して韓国政府の官僚たちの動きが描かれた映画だが、IMF(国際通貨基金)の非道さについて臆することなく描かれているのが面白い。とにかく韓国映画の現代史に切り込んでいく姿勢は何だかすごいことになっている。夜、新宿でNさん。

何年ぶりかに菅官房長官記者会見に出る

12月5日(木) 午前中に原子力資料情報室で中里さんの写真を高木久仁子さんからお借りする。ジャパンライフ山口隆祥元会長と「桜を見る会」の縁は、安倍首相の父親の代にまで遡る。

 クリント・イーストウッド監督の最新作『リチャード・ジュエル』を試写でみる。警察とメディアが合作ででっちあげた冤罪ケースの何と生々しいこと。それにしても、アトランタ・ジャーナル紙の女性記者の描かれ方には、ちょっとひっかかりを覚えた。調べてみよう。

クリント・イーストウッド監督の最新作『リチャード・ジュエル』クリント・イーストウッド監督『リチャード・ジュエル』=公式サイトより

 アフガニスタンでの中村哲さんの死亡関係のニュースが続々と入ってきた。現地では住民たちの追悼の集いもあったようだ。遠くの人の死を悼むことができない人は、近くの人の死にも無関心になる。「桜を見る会」のジャパンライフ関係で明日いろいろと動き回ることになりそう。

12月6日(金) 朝、テレビをみていたら「あさイチ」に川上未映子さんが生出演していた。朝日新聞が朝刊で、大学入学共通テストでの記述式問題を延期する方向だと大展開している。

 内閣府で衛藤晟一消費者担当大臣の閣議後会見に出る。衛藤大臣の会見は2度目。前回の会見もお粗末な答弁だったが、今日の会見も相当なレベルだ。ジャパンライフに関する消費者庁の内部文書と思われるものについて質問したが、またもやお付きの官僚が答弁の差し紙をしていた。要は調査する気なんか全くないのだ。消費者庁の伊藤明子長官というのも別の局のテレビで見たが、かなりひどい対応だった。

 「クレスコ」の原稿。大学入学共通テストの頓挫をめぐって。富山のチューリップテレビのディレクター氏とランチ。地方局にはまだ希望がある(場合がある)。

 菅官房長官の午後の記者会見に出る。本当に何年ぶりか。「桜を見る会」をめぐって番記者たちが最前列でいろいろと質問していた。もっと前からこれくらい熱心に質問していればよかったのにね。望月衣塑子記者のようにとは言わないが。その望月記者も参加していて、僕の前の前にあてられていた。番記者以外の人間にはなかなかあてない。

番記者以外の人間にはなかなかあてないこの人の記者会見は、番記者以外にはなかなかあてられない…

 僕も手を上げ続け

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