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イラン危機に日本はどう対応すべきか

中東を訪問する安倍首相がやるべきこと、そして自衛艦派遣について一部見直すべきこと

登 誠一郎 元内閣外政審議室長

 大晦日に報じられたゴーン被告のレバノンへの極秘逃亡に続き、新年の3日にはトランプ大統領の指示に基づく米軍によるイラン革命防衛隊司令官の殺害、と予期せぬ出来事が続き、9連休を満喫していた日本国民の目を一気に覚まさせた。

 これまでも中東はたびたび世界の火薬庫ともいうべき危険要素をはらんでいたが、今回のイラン危機は、米国とイランの戦争にも発展しかねない要素を含み、2020年の世界情勢を一気に緊張の渦に巻き込んだ。

 この状況は北朝鮮の動向にも微妙な影響を及ぼすものであり、また原油価格の上昇から日本経済にも悪影響が懸念されるので、日本としても従来以上に真剣な情勢分析と賢明な対応が求められる。

拡大イラン革命防衛隊のソレイマニ司令官の殺害に関し、トランプ米大統領はツイッターに星条旗の画像をアップした=トランプ氏のツイッターから

イラン司令官殺害の影響

 他国の領域にドローンを飛ばして外国の要人を殺害する行為は、国際法と国際倫理を無視する違法な措置であることは否定すべくもない。米国政府は、この行為は戦争を防止し、米国人の生命を救うためのものと主張しているが、これは全く根拠に欠ける詭弁としか言いようがない。

 ソレイマニ司令官が多くの米国人殺害を準備していたという確たる証拠はなく、逆にこの行為はイラン側の反発を招いて、戦争の危機を増大する恐れこそある。十数年前のイラク戦争が、存在もしなかった大量破壊兵器を破壊するためという理由で行われた歴史をほうふつさせるものがある。

 国防総省は「トランプ大統領に提出したオプションの一つとして、現実的には採用されることはないと思われる極端な案としてこの殺害案を掲げた」と報道されている。そして大統領が実際にこの案を採用したので国防総省は驚いたとも伝えられている。

 このような極端な案は、法的、倫理的にはいかなる場合にも許容されず、もし政治的判断として容認されるとしたら、それはこの案の実施により、当該国の安全保障に関する基本的な考えを変更させる(即ち核政策の放棄)効果が期待されるか、もしくは、国内で弾圧などが実践されていることにより根強い反政府勢力が存在して、クーデターなどによる政権交代が期待される場合であろう。

 米国はソレイマニ司令官の本質をどう理解していたのであろうか?

 イランからの報道によると、同人は広く国内の支持を得ている国民的英雄であり、その排除を望む国内勢力はほとんど見られないとのことである。その点、サダムフセインやカダフィとは全く異なる。このような人物を殺害することは、イランから妥協を引き出すことに何ら役には立たない。また金正恩も今回の殺害劇を見て、やはり核を持たないと簡単に始末されるという思い込みを新たにしたかもしれない。

 米国の議会やマスコミからは、今回の行動は大統領弾劾の訴追から目を奪い、さらに11月の大統領選挙を有利に導くための党利党略的行動との批判もある。その当否はともかく、これは中東地域の危険性と世界経済の悪化を招来する措置であることは否定できない。

 「アメリカ・ファースト」はそれ自体が間違ったスローガンとは言えないが、それにより他国や世界の安全を危機に瀕しかねない措置は決して許されるべきではない。

 このような世界的な危機を生じうる事態に直面しても、国連の安全保障理事会が全く機能しない状況は憂うべきことである。とはいえ米国がいかに最強国としても、一国だけで世界の平和と安全を確保することは不可能である。

 英仏などとの協議にとどまらず、日本、ロシア、中国、さらにはエジプト、サウジアラビアなどの地域の有力国と密接な協議を行って、決してイランとの報復合戦になることなく、事態のこれ以上の拡大の防止に最善を尽くすべきである。

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筆者

登 誠一郎

登 誠一郎(のぼる・せいいちろう) 元内閣外政審議室長

兵庫県出身。東京大学法学部卒業後、外務省入省(1965)、駐米公使(1990)、ロサンジェルス総領事(1994)、外務省中近東アフリカ局長(1996)、内閣外政審議室長(1998)、ジュネーブ軍縮大使(2000)、OECD大使(2002)を歴任後、2005年に退官。以後、インバウンド分野にて活動。日本政府観光局理事を経て、現在、日本コングレス・コンベンション・ビューロー副会長、安保政策研究会理事。外交問題および観光分野に関して、朝日新聞「私の視点」、毎日新聞「発言」その他複数のメディアに掲載された論評多数。

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