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発足100周年の国際連盟から我々は何を学ぶか

第2次世界大戦を防げなかった国際平和機関の「失敗」ばかりとはいえない実態

鈴村裕輔 名城大学外国語学部准教授

「平和も紛争も分割不可能」という考え

 かつて、外交評論家のテオ・ゾンマーは「世界のどこかに緊張があるとしても、ヨーロッパを緊張地域にすることがあってはならない」という趣旨の意見を述べている。ある地域の緊張と他の地域の平和とを分けて取り扱うことは可能だという指摘だ。

 これに対し、古来、たとえ世界の見知らぬ土地であるとしても、平和が破られることを黙視することは出できないという意見もある。

 国際連盟は後者の立場にたち、「平和は分割不可能」という考えにより、世界の平和を維持することの重要性が強調された。

 言うまでもなく、第1次世界大戦の発端は、ヨーロッパの大国オーストリア=ハンガリー帝国と小国セルビア王国の対立だった。当初、大国の前に小国が屈すると思われていた紛争は、各国の複雑に張り巡らされた条約網により、1カ月もたたないうちに全ヨーロッパに広がる。そして、少なくとも900万人以上、多ければ1500万人以上が戦没したとされる未曽有の惨禍をもたらした。

 それゆえ、戦後の世界が、“小さな紛争”でも黙視しないと考えたのは、ごく自然であった。

 その一方で、国際連盟の設立を提唱したウィルソン大統領の米国では、「戦争に訴えたる連盟国は、当然他の総ての連盟国に対して戦争行為を為したるものと看過す」という国際連盟規約第16条の規定が問題視された。他国の紛争に巻き込まれることを避けるため、加盟が見送られたことは、平和の対極にある紛争もまた、平和と同様に分割不可能であると考えられていたことをわれわれに教えるのである。

対英仏に消極的抵抗を示したドイツ

 周知の通り、第1次世界大戦によってドイツ帝国は崩壊し、ドイツはヴァイマル共和国と呼ばれる共和政に移行した。

 しかし、1919年6月28日に締結されたヴェルサイユ条約は、ドイツを徹底して無力化することが目指され、ドイツのすべての海外植民地と海外の権益の放棄、アルザス・ロレーヌ地方などの領土の割譲、ザール地方などの国際管理、軍備の制限、ラインラントの非武装化などが定められた。さらに、1320億金マルク、現在の貨幣価値で200兆円を超える賠償金がドイツに課せられた。

 賠償金問題を巡る対立と、ドイツの賠償金の不払いは、1923年のフランスとベルギーによるルール地方の占領をもたらす。これに対して、ドイツ国内では労働者が生産を停止するなど、対英仏消極的抵抗を行い、政府も生産活動を放棄した労働者への賃金の支払いを支援するなど、非協力政策を採った。

 ドイツの経済は、生産力の低下による物価騰貴と財政難に見舞われ、第1次世界大戦前の1ポンド=20マルクだった為替相場は一時、1ポンド=5兆マルクという超インフレーションに陥った。

国際連盟が引き出した現実的政策

 そのような状況下で首相になったが、グスタフ・シュトレーゼマンだった。第1次世界大戦前には対外拡張主義者でもあったシュトレーゼマンは、首相就任後、前任のヴィルヘルム・クーノ政権による消極的抵抗政策を中止し、生産の再開と賠償金の支払いという対英仏協力政策を打ち出す。

拡大ドイツ代表シュトレーゼマン外相の国際連盟加入演説=1926年9月8日、スイス・ジュネーブ
 シュトレーゼマンの首相在任期間は3カ月ではあったものの、政策転換によりルール占領が終了するとともに、賠償金についても減額が実現した。後任のヴィルヘルム・マルクス内閣で外相となったシュトレーゼマンは、さらに国際協調政策を進め、英独仏がそれぞれ安全を保障するロカルノ条約を締結することで、1926年にはドイツが常任理事国として国際連盟に加盟する道を開いた。

 ロカルノ条約の発効の条件がドイツの国際連盟への加盟であり、ドイツの加盟によってヨーロッパの政治が安定を取り戻したことは、一面において、かつての対外拡張主義から国際協調主義に転じたシュトレーゼマンの政治的な手腕の成果であり、他方では、国際連盟の存在が為政者に現実的な政策の遂行を迫る要因のひとつとなっていたことを示すものであった。

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筆者

鈴村裕輔

鈴村裕輔(すずむら・ゆうすけ) 名城大学外国語学部准教授

1976年、東京生まれ。名城大学外国語学部准教授、法政大学国際日本学研究所客員所員。法政大学大学院国際日本学インスティテュート政治学研究科政治学専攻博士課程修了・博士(学術)。専門は比較文化。主著に『メジャーリーガーが使いきれないほどの給料をもらえるのはなぜか?』(アスペクト 2008年)、『MLBが付けた日本人選手の値段』(講談社 2005年)がある。日刊ゲンダイで「メジャーリーグ通信」、大修館書店発行『体育科教育』で「スポーツの今を知るために」を連載中。野球文化學會会長、アメリカ野球愛好会副代表、アメリカ野球学会会員。

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