山口 昌子(やまぐち しょうこ) パリ在住ジャーナリスト
元新聞社パリ支局長。1994年度のボーン上田記念国際記者賞受賞。著書に『大統領府から読むフランス300年史』『パリの福澤諭吉』『ココ・シャネルの真実』『ドゴールのいるフランス』『フランス人の不思議な頭の中』『原発大国フランスからの警告』『フランス流テロとの戦い方』など。
「許せない」と怒る日本と異なり評価するフランス。ただ、カタルシスなく苦い味も
カルロス・ゴーンの大脱走事件は、フランスと日本との広義の意味での文化摩擦というか、価値観の相違をみせつけた。
ゴーンはブラジル、レバノン、フランスの三つの国籍を持つが、旧仏領のレバノンでの仏式の小、中学教育をはじめ、フランスでの高校及び秀才校ポリテクニック(国立理工科学校)、そして同校の上位成績者数人が進学する MINE(国立高等鉱山学校)で形成されたフランス人としての価値観、人生観を所有している。
日本の反応が、東京地検を筆頭に森雅子法相から町の声まで官民が一致して、「卑怯だ」「許せない」「怪しからん」と批判、糾弾で溢(あふ)れているのに対し、フランスでは、「劇場型」(仏国営TV「フランス2」)など皮肉な調子はあるものの、スティーブ・マックウィーン主演の米映画「大脱走」を連想させるタイトルを新聞の見出しに取ったところもあり、どこかに「痛快」のニュアンスが読み取れる。
その国民感情を反映するかのように、ゴーンの日本脱出が伝わった直後の仏週刊誌「ルポワン」が1月1日発行の電子版で報じた世論調査では、「よし」とする意見が67.1%と過半数を大幅に超えた。
理由として考えられるのは、ゴーンが質疑応答を含めた2時間半の記者会見でも声を大にして叫んだ「妻」との「接触禁止」だった。つまり、日仏での「家族感」の相違であり、人権に対する価値観の相違だ。日本ではセックレスの夫婦も珍しくないが、フランスでは愛し合っている夫婦が彼らの意思に反して「会えない」、という事態は想像を絶した悲劇であり、「刑罰」(ゴーン)ということになる。
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