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ゴーンの「大脱走」がみせつけた日仏の文化摩擦

「許せない」と怒る日本と異なり評価するフランス。ただ、カタルシスなく苦い味も

山口 昌子 在仏ジャーナリスト

「家族の絆」「隣人との連帯」が強いフランス

 フランスの移民法には、「家族呼び寄せ制度」が明記されている。正規の移民労働者が一定期間、フランスで働いた場合、家族を呼び寄せる権利がある。つまり、家族は「一緒に暮らすべきである」「家族が離れ離れで暮らしている状態は通常ではない」「不幸だ」というフランス人の基本的価値観、人生観による。

 アフリカの一部では、多重婚がいまだに認められているので、アフリカからは「家族呼び寄せ制度」によって、複数の「妻」とその多数の子供たちが、フランスにやってくる。その結果、大家族に滞在許可証を与え、健康保険などの社会保障制度を適用し、子供たちを通学させることになり、多大な経済的負担が発生する。政権が交代する度に、移民法の改訂問題が浮上し、「家族呼び寄せ制度」が論議の焦点になる場合が多い。

 「家族は一緒にくらすべきだ」との人権重視のフランス的価値観を堅持するべきか、大赤字の社会保障制度や風俗習慣、特にイスラム教とキリスト教の宗教の相違からくる摩擦などを少しでも回避し、「移民反対」の極右の台頭を防止すべか、など議論は尽きない。

 日本ではなぜか、「フランスは個人主義の国」といった固定観念が流布しているが、フランスでは家族の絆も隣人との連帯も強い。週末には両親を訪問したり、両親が訪ねてきたりして一緒に食事をするのが慣習だ。というわけで、ゴーンの夫婦の接触禁止は「刑罰」との指摘は、フランスでは説得力をもって受け取られている。

拡大仏テレビ局TF1が入手した、日産自動車前会長のカルロス・ゴーン被告(中央)の写真。同局によると、大みそかにベイルート市内で妻のキャロル氏(右)と新年を祝う宴を開いている様子が写されている=同テレビ局の映像から

「妻が夫のために偽証するのは当たり前」

 しかも、フランスの法律用語には、「推定無罪」という言葉がある。逮捕されても、裁判で有罪が確定しないかぎり、「無罪」の可能性があるので「無罪扱い」だ。ゴーンが記者会見で指摘したように、約90日の刑務所暮らしや、保釈期間を含めると1年以上の拘束状態は、「異常」ということになる。

 ゴーンが小菅での独房生活で、「シャワーが週2回、医薬品の支給なし」と訴え、「もはや人間ではない」と日本の司法制度を糾弾したのも、フランス人から見れば、決して誇張ではない。

 日本は残念ながら、この点では、国際的に評判を落としてしまった。地検がゴーンの妻キャロルに対し、偽証罪で逮捕状を出したことも、国際的に評価され、勝ち点を挙げることができただろうか。「妻が夫のために偽証するのは当たり前ではないか」というのがフランスの友人の感想だ。

 ゴーンのような大富豪、しかも不正に大金をせしめたとされる人間は“敵”のはずの極左政党「服従しないフランス」のメランション党首も、「断じて受け入れられない過酷な扱い」(1月7日、フランス通信社)と日本の司法制度を非難した。

 日本の司法制度に対するフランスをはじめ国際的な批判は脱走前から多かったので、筆者は個人的には、ゴーン側はこの裁判を、「人権」問題にすり替えて争うのではないかと考えていた。

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筆者

山口 昌子

山口 昌子(やまぐち しょうこ) 在仏ジャーナリスト

元新聞社パリ支局長。1994年度のボーン上田記念国際記者賞受賞。著書に『大統領府から読むフランス300年史』『パリの福澤諭吉』『ココ・シャネルの真実』『ドゴールのいるフランス』『フランス人の不思議な頭の中』『原発大国フランスからの警告』『フランス流テロとの戦い方』など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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