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「デジタルな死」を語ろう

サイバー空間とリアル空間が融合する時代の死後の人権

塩原俊彦 高知大学准教授

「デジタル資産」ごとに異なる対応

 しかし、こうした判断が他国においても適用されるかどうかはまったくわからない。

 そもそも「デジタル資産」と言っても、①電子メール、ブログなどの電子コミュニケーション、②金融口座、③音楽・写真・ビデオのようなデジタル収集品、④クラウドサービスのようなデータベースなどのビジネス・アカウント、⑤ポイントなどのオンライン報酬プログラム、⑥暗号通貨(資産)――などがある。デジタル資産ごとに対応が異なるから、「デジタルな死」の問題を一層難しくしている。

 米国には、デジタル権管理(Digital Rights Management, DRM)という、ユーザーが著作権保持者、装置メーカー、小売業者、その他の仲介者によってなされる、本、映画、音楽、その他のデジタルコンテンツを利用できるかどうかや、どのようにどこでいつコントロールするかをデザインする技術範囲を意味する婉曲表現がある。

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 DRMは法律に基づいているわけではない。つまり、法律制定に関する過程を経てつくられたものではない。これはエンド・ユーザー・ライセンス協定(end user license agreement, EULA)であり、小売業者や著作権者に有利になるように個人の権限を制限しようとしている。DRMを行う側は、利用者がデジタル製品を貸したり、修理したり、再販したりするのを厳しく制限し、コピーによる著作権侵害といった損失を防ごうとしているのだ。

 さらに、1998年制定のデジタル・ミレニアム著作権法(Digital Millennium Copyright Act, DMCA)において、著作権で保護されたものへのアクセスを制限するあらゆる技術的措置を回避する(迂回・無力化・除去する)ことを不法としたり(1201(a)条)、複製回数や複製行為を制限・禁止する技術的手段を保護することを認めたり(1201(b)条)された。

 こうしてDRMを破ること自体が処罰の対象となったことで著作権者の立場が強化された。加えて、DMCAの立法趣旨が日本をはじめとする多くの国々で採用された。つまり、死者がたとえ無形資産としてポイントやチャージした残高が残っていたとしても、遺族が引き出したり、引き継ぐことはできないことになりかねない状況にある。

 他方で米国には、2019年8月現在、Revised Uniform Fiduciary Access to Digital Assets Act(RUFADAA)という法律を施行済みの州が41あり、弁護士のような生前にユーザーの信認を受けた者(フィデュシャリー)による特定のデジタル資産へのアクセスや管理が認められている(詳しくは論文「死後のデジタル資産」を参照)。

 キャッシュレス化を進める日本政府は残念ながら、こうした問題について

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筆者

塩原俊彦

塩原俊彦(しおばら・としひこ) 高知大学准教授

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士(北海道大学)。元朝日新聞モスクワ特派員。著書に、『ロシアの軍需産業』(岩波書店)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(同)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)、『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)、『ウクライナ2.0』(同)、『官僚の世界史』(同)、『探求・インターネット社会』(丸善)、『ビジネス・エシックス』(講談社)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ社)、『なぜ官僚は腐敗するのか』(潮出版社)、The Anti-Corruption Polices(Maruzen Planet)など多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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