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世界はどこへ行く、そして日本は?

トランプ大統領は再選を目指し激しく動く。米国発のリスクが世界を覆う2020年。

田中均 (株)日本総研 国際戦略研究所特別顧問(前理事長)、元外務審議官

 2020年の年初に起こったことはこれからの世界を暗示している。

 イラクで米軍によるイラン革命防衛隊「コッズ部隊」司令官の殺害、イラク米軍基地に対するイランの報復ミサイル攻撃、第一段階の米中貿易合意の署名、そして米上院のトランプ大統領弾劾裁判が始まる。

 大統領再選をかけたトランプ大統領が厳しい国内政情を克服するため対外関係で成果を上げるべく打って出ていると見るのは間違いか。今や米国発のリスクが世界を覆う。

30年前に予期したものとは違う世界になった

 およそ30年前、ジョージ・H・W・ブッシュ米大統領とミカエル・ゴルバチョフ・ソ連共産党書記長がマルタで会談し、東西冷戦の終了を宣言した時、我々は何を思ったか――。自由民主主義は勝利した、これで世界各国の民主主義的改革が進むに違いない、もう冷戦中のような国防予算は必要がない、平和の配当を享受しよう、と。

 しかし世界は期待したようには動かなかった。

 今日、米国をはじめとする先進民主主義諸国では国内の分断は深刻で、おしなべてポピュリズムが跋扈し、民主主義の姿が変わりつつある。

 一方、ロシアや中国では民主義的改革は地につかず、専制体制が強化されてきた。中国の習近平総書記の下、国家主席の任期は撤廃され、ロシアでもプーチン大統領は2024年の大統領任期を超えて実権を維持するのではないかと報じられる。

 同時にグローバリゼーションは新興国の急速な経済成長を可能にし、先進民主主義国との相対的国力の差を縮めた。

 米国と中国・ロシアは第二の冷戦の道を歩んでいると議論する向きもあるが、冷戦とは異なる様相を呈している。

G20 G20サミットで行われたデジタル経済に関する首脳特別イベントであいさつする安倍晋三首相(中央)。左はトランプ米大統領、右は中国の習近平国家主席=2019年6月28日、大阪市住之江区

 冷戦時代になかった経済の相互依存関係は圧倒的に大きい。米中の貿易合意は今後2年間で米国の対中輸入を2000億ドル増やすという。それだけ相互に依存する関係を冷戦とは言わない。

 しかし一方で、米国などの自由民主主義体制・市場主義体制と中国を筆頭とする専制体制・国家資本主義体制が戦略的対立を深めていくことも明らかなのかもしれない。両者の信頼関係は大きく損なわれている。

 これから世界はどこへ行くのだろう。政治体制も経済体制も異なる二つのブロックに分断され、対峙し、究極的には衝突していくのか。

 しかし現存している経済的な相互依存関係を壊すと世界経済が失速することは明らかであろうし、それを各国は望むのか。

 衝突に至る前に各々の体制変化が生まれることもあるのではないだろうか。

米国の行方

 米国はどうだろう。考えてみれば8年間のブッシュ政権下では中東の戦争で甚大な人命の犠牲と財政の負担を生み、8年のオバマ政権では極めてリベラルな政策が保守層の強い反感に繋がり、リーマンショックは米国内の極端な貧富の格差を浮き彫りにした。

 米国の政治の変化は米国内に蓄積された大きな不満とそれに基づく分断が既成の政治勢力でも大企業出身でもない一匹狼的なトランプ氏を大統領に押し上げたということだろう。トランプ大統領が掲げる「アメリカ・ファースト」は米国が国際社会のために持ち出しをするのはもう嫌だ、ということだ。

 世界の安定といった迂遠なアプローチよりも短期的な米国の利益を優先する、米国は力が強いから、力で相手を押さえつけられる二国間のアプローチをとる、ということだ。新NAFTA、日米通商合意、米中貿易合意などトランプ大統領にして見れば偉大な成果というわけだ。

ホワイトハウスで行われた米中貿易合意の署名式で演説するトランプ大統領=2020年1月15日、ワシントン

 中国との合意で貿易数値目標を作り人為的に輸入を増やすというのは管理貿易であり自由貿易の原則に反する、といった議論も虚ろに響く。

 スレイマニ司令官の殺害についても、公人を第三国で一方的に殺害する行為は国際法の認めるところではないといっても、トランプ大統領は、スレイマニ司令官が国際的テロリストだから、と殺害を正当化する。

 民主主義国では選挙が体制の変化を可能にする。11月の大統領選挙でトランプ大統領が再選されるのはそんなに簡単なことではない。

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