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山本太郎代表も掲げる「反緊縮」の正体とリスク

財源確保は税金と国債のどちらによるべきか? 野党や保守系で錯綜する議論の結論は

米山隆一 衆議院議員・弁護士・医学博士

れいわ新選組の山本太郎代表。「消費税ゼロ」を訴えている=2019年12月4日、東京都千代田区

 立憲民主党と国民民主党の合流が難航していると報じられています。両党の対立はどちらかというと合併時・合併後の党の体制によると思われるので、話し合いによる解決が可能だと思われるのですが、実は「野党共闘」の最大の波乱要因は、議員でないとはいえ、カリスマ的人気を持つ山本太郎代表が、「『消費税ゼロ』で日本は甦る! れいわ新選組・山本太郎が考えていること」と題する論考を雑誌に寄稿し(文春オンライン)、高らかに「反緊縮」「消費税廃止」を掲げる「れいわ新選組」との協力関係であると思います。

 この「反緊縮」は、野党側のみならず保守系でも主張する人は多いものの、正直いって議論が錯綜(さくそう)している状況かと思いますので、私の考える「反緊縮」の位置づけとそのリスクを論じたいと思います。

3人のお百姓さんのモデルで考える

 「反緊縮」か「緊縮」かは、本来は赤字財政か均衡(黒字)財政かだけでなく、財政規模を拡大するか縮小するかも加味したうえで区分されるべきものと思います。しかし、一般的な「反緊縮論争」は、「国の財源を確保するために『税金』によるべきか、『国債』によるべきか」という形でなされています。

 そこで、本稿でもこれに従い、財政規模について考えることなく、国(公共団体)の財源を確保するに際し、「税金」を用いるのと「国債」を用いるのとではどこがどう違うかについて論じます。

 話を分かりやすくするために、Aさん、Bさん、Cさんの3人のお百姓さんが住む「3人の村」のモデルで考えてみましょう。

当年度に限れば「反緊縮」「緊縮」に違いなし

 2020年現在、この村で1年間暮らすためには、年3俵のお米が必要です。Aさんは年2俵のお米しかとれず、Bさんは年5俵、Cさんは年10俵取れます。そこで、村役場はCさんから1俵もらってAさんにあげようと考えました。その場合、「年貢(税金)」による場合と「村債(国債)」による場合ではどう異なるでしょうか。

 「年貢」による場合、村役場はCさんから「年貢」として米1俵をもらい、Aさんに米1俵を渡します。その際、村役場はCさんに「米1俵 年貢受領書」を渡します。

 「村債」による場合、村役場はCさんから「村債代金」として米1俵をもらい、Aさんに米1俵を渡します。その際、村役場は、Cさんに「5年後に米2俵を返します」と書かれた「米1俵 5年村債証券」を渡します(より詳しい例はこちら)。

 この例からお分かりの通り、「現在(2020年)」のお米の流れは、「年貢」でも「村債」でも、Cさんから米1俵を貰ってAさんに米1俵を渡しているという点で、なんの違いもありません。

 つまり、実のところ、「税金(年貢)による財源の確保」と「国債(村債)による財源の確保」は、当年度のお金(財・サービス)の流れについてはまったく変わりません。当年度に限るなら、「反緊縮」財政と「緊縮(均衡)」財政の両者に、言われているほどの大きな違いはないのです。

「後始末する義務」を先送りする「村債」

 ただし、「その後」に目を転じると、異なる点が2点あります。

 まず、極めて明白なことですが、5年後の2025年に村役場は、Cさんに米2俵を返さなければなりません。5年後の2025年においても「現在」と変わらずAさんは2俵しかとれず、Bさんは5俵、Cさんは10俵とれるのだとしたら、村役場は、
①Aさん、Bさんから米2俵を年貢として取って(Aさん、Bさんは生活がギリギリなので、国債は買ってくれません)、Cさんに返す、
②Cさんから年貢2俵をとって2俵返す、
③Cさんに追加で2俵分の村債を買ってもらって2俵返す(村債の借り換え)、
のどれかの手段をとらなければなりません。

 別の言い方をすれば、「現在」においては、年貢(税金)であれ村債(国債)であれ、「Cさんから1俵貰ってAさん1俵渡す」ことになんの変りもないのですが、5年後になると、村債(国債)の場合は、①Aさん、Bさんから2俵分の税金を取るか、②Cさんから2俵分の税金を取るか、③Cさんから返済分を含めて3俵の村債(国債)を買ってもらう必要が生じるのです。

 「国債は国民の資産だから、増えても大丈夫だ(むしろ増やすべきだ)!」という主張は、冒頭で紹介した山本太郎氏の論考をはじめ、「反緊縮派」からよく聞きます。

 たしかに、村債(国債)がCさんの資産であること(少なくともCさんが資産だと思っていること)自体はその通りです。しかしそれは、

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