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『リチャード・ジュエル』が問う日本の司法と報道

全国公開されているこの映画とゴーン逃亡劇は、日本の刑事司法を考える格好の題材だ

石川智也 ジャーナリスト・朝日新聞デジタル「&」副編集長

米国の冤罪事件の年表に必ず登場する名

 時宜を得たというべきかどうか、カルロス・ゴーン逃亡劇に続き、日本の刑事司法のあり方について考える材料を提供してくれる一本の映画が、1月17日から全国公開されている。

 『リチャード・ジュエル』。主人公であり実在の人物の名が題名になった作品だが、この名は冤罪事件の年表やメディア史には必ず登場する。

 米国人にとって、日本で言えば松本サリン事件の被害者である河野義行さんのような響きを持つと言えばよいだろうか。一時は「アメリカの英雄」としてメディアの寵児に祭り上げられながら、一転して凶悪な爆弾テロ犯に仕立て上げられた男だ。

 周囲の目が突如一変する不条理性や権力の非人間性をあぶり出したという点ではカフカの『変身』や『審判』、付和雷同する群集の凶暴性を描いたという点ではイプセンの『民衆の敵』を彷彿とさせる。

 しかし寓話的な要素はほとんどなく、捜査手法や報道の課題という現代的なテーマを扱ったドキュドラマだ。

拡大映画『リチャード・ジュエル』の場面 © 2019 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

 監督のクリント・イーストウッドは4年前にも『ハドソン川の奇跡』で同じ主題に迫っている。この作品も、2009年にニューヨークで起きたUSエアウェイズ1549便の不時着水事故で乗客・乗員を救った機長が英雄として称賛を浴びるその裏で、国家運輸安全委員会から判断ミスの嫌疑を受けるや一転して「被疑者」扱いされた実話に基づく。

 もちろんエンターテインメント作品ゆえの限界はあり、個々の問題点への掘り下げは甘い。バッシングを受ける主人公が数少ない仲間と家族の支えによって最後には「正義が勝つ」大団円を迎えるあたりは、イーストウッドらしい正攻法の演出が冴えるほどに、いかにもハリウッド的な予定調和の臭いがぷんぷんする。

 それでも、この作品には幾つもの教訓が込められている。

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筆者

石川智也

石川智也(いしかわ・ともや) ジャーナリスト・朝日新聞デジタル「&」副編集長

1998年、朝日新聞社入社。岐阜総局などを経て社会部でメディアや教育、原発など担当した後、2018年から特別報道部記者、2020年4月から朝日新聞デジタル「&」副編集長。慶応義塾大学SFC研究所上席所員を経て明治大学感染症情報分析センターIDIA客員研究員。著書に「それでも日本人は原発を選んだ」(朝日新聞出版、共著)等。ツイッターは@Ishikawa_Tomoya

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